2020年12月5日(土) 10:50~12:20
ミーティングルームA(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー:
鍾宜錚(大谷大学真宗総合研究所東京分室)

  • 台湾における終末期医療の法制度と「善終」概念の実践
      鍾宜錚(大谷大学真宗総合研究所東京分室)
  • 日本の終末期医療に関する法政策の現状と文化的・社会的背景
      田中美穗(日本医師会総合政策研究機構)
  • 韓国における「延命医療決定法」と「良い死」をめぐる議論
      洪賢秀(明治学院大学社会学部付属研究所・東京大学医科学研究所)

オーガナイザー報告

本シンポジウムは、日本、台湾、韓国における終末期医療の法政策の動向を検討し、関連議論において「良い死(または、望ましい死)」の概念や社会事情や文化がどのように影響しているのかを考察するものである。終末期医療の法政策に関しては、1970年代から欧米を中心に、患者の自己決定を尊重することが原則と考えられている。しかし、日本、台湾、韓国ではこの原則がそのまま受け入れられたわけではなく、さらに、同じ東アジアの中でも終末期医療の捉え方や法制化に対する社会的な受容も異なっている。考えられる要因として、一つは、終末期医療の発展経緯が影響していること、もう一つは、死や死にゆくことをめぐる個別の国・地域の文化的・社会的背景が医療に反映されているということがある。

そこで本発表では、日本、台湾、韓国の順番で、終末期医療の法政策とその社会的・文化的背景を検討した。まずは田中美穗氏が、日本における終末期医療に関する議論と、国のガイドラインの策定から法制化に至らない状況を説明。1970年代以降欧米のホスピス・緩和ケアの考え方が導入され、国のガイドライン策定以降、法的枠組みに結び付くことなく医療現場で醸成されてきたという文化的・社会的背景を考察した。次に鍾宜錚氏が、台湾の終末期医療の法制化の動きとその施行状況、良い死という概念が法制化にどのように影響しているのかについて報告。1980年代後半に始まったホスピス運動を契機に、「安寧緩和医療法」から「患者自主権利法」まで一連の法制化の動きと法律の施行状況を踏まえた上で、文化的な概念としての「善終(善い死)」が法制化されていく経緯とその影響を検討した。最後に、洪賢秀氏が、韓国の「延命医療決定法」の制定過程での「良い死」をめぐる社会での議論と改正背景について報告。韓国では、「延命医療決定法」制定過程での「良い死」をめぐる社会での議論と、本法の改正背景に着目し、韓国社会における終末期医療の特徴と諸課題について明らかにした。

上記の報告に対してフロアから次のような質問及びコメントがあった。①台湾のACP制度及び事前指示書の特徴について②韓国の立法化への反対立場について③日本・台湾・韓国における終末期医療の意思決定の過程にみられるジェンダー的特徴と文化的・社会的相違について。以上のような議論を踏まえて、各国の終末期医療おけるジェンダーの視点から実態調査の必要性が課題となった。

鍾宜錚(大谷大学真宗総合研究所東京分室)