2020年12月6日(日) 10:40~12:10
ミーティングルームA(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
浜渦辰二(上智大学)

  • 生命倫理と社会生活の倫理―スウェーデンの包括的な「福祉」の思想を導きに
      竹之内裕文(静岡大学)
  • スウェーデンにおける知的障害者福祉と生命倫理
      是永かな子(高知大学)
  • オープンダイアローグ・アプローチにおける治療とケアの思想
      石原孝二(東京大学)

オーガナイザー報告

このシンポジウムでは、大会テーマである「価値観と文化の多様性にむきあう生命倫理学」の一環として、福祉先進国として「ケア」を重視してきた北欧諸国が、障害と傷つきやすさに配慮した生命倫理にどう向き合ってきたかを考察した。

はじめに、スウェーデンの終末期医療倫理が、1970〜80年代に自己決定権に基づいて「安楽死」「自殺幇助」について議論が盛んに行われたが、次第にそれが「全体的な苦痛の緩和と普遍人間的な暖かい最深の思いやりのみが尊厳ある死を創造しうる」という「ホスピス医療」の理念へと比重が移動していったことを、座長がイントロとして紹介した。

竹之内裕文氏は、北欧社会では、脱施設、社会参加、個の尊厳、自己決定、平等、民主主義といった共通の理念のもと、すべての市民を対象にした「包括的福祉」の政策が推進されてきたとした。「森とともにある暮らし」と「他者とともに生きる挑戦」という視角から、スウェーデン社会を支える倫理を照らし出し、障害者の居住生活とそれを支える歴史的背景を素描し、「自己決定」の社会的受容など、障害者の社会生活を支える倫理を明らかにし、スウェーデン社会における生命倫理と社会生活の倫理の関係を考察した。

是永かな子氏は、知的障害者福祉の展開を中心に、ノーマライゼーションの浸透により知的障害者の暮らす場所は施設から寄宿住居、グループホームに移行し、脱施設化としての地域への「統合(インテグレーション)」が促進され、さらにそれが1990年代には「包摂(インクルージョン)」に変化し、障害者を健常者に近づけるのではなく、障害者の多様性を前提に異質な他者との共生を求めるようになった。このような歴史と現状から、日本で2016年に起きた相模原障害者殺傷事件のような事案はスウェーデンでは起きないだろうと主張した。

石原孝二氏は、1980年代からフィンランドにおいて開発されてきた精神科医療のオープンダイアローグ・アプローチ(OD)の思想を考察した。ODにおいては投薬が可能な限り避けられ、治療スタッフと患者、患者家族などが対等な立場で参加する「治療ミーティング」が治療の中核に据えられるが、制度的な権力構造の中で対等な立場での対話という理念がいかにして可能なのかを検討した。その制度と思想を日本や世界の精神科医療の制度・思想と比較しながら、ODが治療とケアの思想に与えるインパクトを考察した。

参加者から福祉国家の優生政策について質問があり、情報提供をきちんとしたうえで、対話のプロセスを大事にするとともに現実的に判断し 選択の自由と自己決定と多様性を保証することが行われていることが答えられた。

浜渦辰二(上智大学)