2020年12月6日(日) 9:00~10:30
ミーティングルームB(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
佐々木香織(小樽商科大学)

  • HPV ワクチン接種被害について
      打出喜義(金城大学)
  • 予防医学の生命倫理 ~ HPV ワクチンを題材にして
      村岡潔(岡山商科大学・西本願寺あそか診療所)
  • HPV ワクチン接種被害の社会学的考察
      井上芳保(苫小牧駒澤大学)
  • HPV ワクチンにおける科学ジャーナリズムの倫理的責任
      佐々木香織(小樽商科大学)

オーガナイザー報告

このRTDでは公衆衛生政策としてHPVワクチンを定期接種A類疾病として積極勧奨を再開し、全ての女児に半ば強制的に接種させようとする動きの問題性について、二つの視座から議論した。

一つは公衆衛生政策における安全性を担保する課題である。一般的にワクチンの重篤な副反応は100万に数回程度が基準だが、厚労省のデータを見るに、HPVワクチンは100万接種あたり、約80例の重篤な副反応が報告され、他のワクチン(水痘9、麻疹5程度)と比べて突出して多い。

第二は公衆衛生政策としての是非である。HPVは感染しても自然退出し約1%のみが約10年かけて癌化するため、子宮頸がん予防には検診という確立した予防策が存在する。またHPVワクチンの子宮頸がん罹患の絶対リスクは5割強の軽減なため、投与群にも検診が必要である。しかし日本の検診率は42%と低い水準である。更に性行為とう濃厚接触を介さねばHPVは感染しない。よって子宮頸がん罹患や死亡を減らすという公衆衛生政策として最善かという問が派生する。

この2点の問題共有から4報告がなされた。

打出は、HPVワクチンが他のワクチンと比べて副反応が多発する理由を医学的に概説し、このワクチンの特異性を検証した。それによりA類疾病に分類してHPVワクチンを前女児に接種を勧奨することの倫理・医学的問題を示した。

井上は、多くの論点を議論したが、特に着目できるのは以下の論点の検証である―①現下のA類疾病に分類しながら積極勧奨を差し控えるという厚労省の「宙ぶらりん」な立場②ワクチン被害を個人の体質や心理などに原因を収斂させ、「ワクチンは無瑕疵」であるという結論に導くある種の「力」③ワクチンを社会防衛の視点から正義と位置付けて定期接種を正当化する力の強さ④所謂「反ワクチン」の運動により「より安全な」ワクチンをもたらすという効果。

佐々木は、推進派がHPVワクチンに関して効用を誇張する傾向–例えば相対リスクの軽減値を絶対リスク値のように報道—から推進派の倫理課題を指摘した。更に同じ科学的を用いながら、推進派と疑義派が異なる結論に至る「価値観」の差異を明らかにし、その価値観を意識した上での対話の必要性を指摘した。

村岡は、特定病因論を採用しHPVの感染が子宮頸がんの原因に収斂させる―実際に感染の99%は自然退出するので―モデル採用の危険性を議論した。それがHPVワクチン推進に繋がるからである。

発表中や最後にフロアから様々な声が聴かれたが、特に印象的だったのは、ワクチン推進に逡巡する現場の医師の声や、推進派も疑義派も「性」という視座が抜け落ちているという指摘である。また推進派と疑義派のダイアローグを続けることの要望は全会一致に近く大きな声となっていった。

佐々木香織(小樽商科大学)