2020年12月6日(日) 9:45~10:30
ミーティングルームD(ZOOMライブ配信)

座長
武藤香織(学会研究開発委員長)

受賞者
川崎唯史(熊本大学院生命科研究部)
「研究倫理における脆弱性の概念」 『生命倫理』(通巻31号)

オーガナイザー報告

若手論文奨励賞受賞者による講演は、2014年度以降、大会会期中に開催されており、ゆっくり一人の演者の話に耳を傾けられるセッションとしてその魅力を培ってきた。2018年度以降は、編集委員会のご尽力により早期に選考過程が進み、研究開発委員会が同年度の年次大会における受賞者講演をお世話している。なお、オンラインでの開催となった今大会では、実行委員会のご尽力によりライブ配信による講演を実現して頂いた。

『生命倫理』(通巻31号)の若手論文奨励賞は、川崎唯史会員(熊本大学院生命科研究部)による「研究倫理における脆弱性の概念」が受賞した。本講演では、自己紹介に続き、論文の構成に即して、脆弱性概念の導入から主に2000年代以降となる本格的な議論までの経緯、脆弱性への3つのアプローチ、3つのアプローチの比較検討、脆弱性に関する倫理的配慮の改善に向けて、という順で講演が進んだ。川崎会員が提起した、脆弱性への3つのアプローチとは、①消去的アプローチ(「脆弱性」を回避し、特定の研究に「特別な監視」を求める)、②包括的アプローチ(あらゆる脆弱性をカバーする定義を模索)、③分析的アプローチ(被験者候補を脆弱にする状況や特徴を分析)である。川崎会員は、包括的定義には様々な脆弱性を含められるが抽象的で保護に役立てにくい点、包括的アプローチを許容する程の脆弱性に関する専門知の共有は国内では見込めない点を踏まえ、国内では分析的アプローチを用いることが妥当ではないかと提起した。

講演では、査読過程での学びとして、①3つのアプローチのうち、どれが望ましいかについては、熟慮の上で主張すること、②査読者に異論がある場合にその理由を丁寧に説明する必要性、③国内状況に関する分析が不足との指摘に対して、今後の課題にしたいとのことであった。また、受賞の講評にて、GCPに関する議論との比較が欠如していた点が指摘されていたが、GCPでの「社会的に弱い立場にある者」の定義(1.61)は、折衷的であることから、研究の性格によって特に配慮すべき脆弱性は変化しうるため、やはり集団的アプローチより分析的アプローチが望ましいのではとの応答があった。質疑応答では、分析的アプローチを採用する理由は有用性に尽きるのか、分析的アプローチを採用するのは当面の間かどうか、脆弱性を規範的概念として掘り下げる意義とその見通し、といった問いがなされ、川崎会員による丁寧な応答がなされた。

武藤香織(学会研究開発委員長)