2020年12月5日(土) 10:50~12:20
ミーティングルームC(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
稲葉一人(中京大学法務総合教育研究機構)

報告者
松村優子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻博士後期課程)
恋水諄源(市立福知山市民病院形成外科)
武ユカリ(関西医科大学看護学部在宅看護学領域)
峯村優一(京都府立医科大学 医学生命倫理学)
中岡成人(一般社団法人哲学相談おんころ)

オーガナイザー報告

本企画は2020年5月にコロナ禍第1波の中でたてられ、コロナ禍第3波の12月5日にオンラインで実施された。

稲葉一人(オーガナイザー・元判事・大学教員)は、全国各地で、外部倫理コンサルテーションを実施しているが、コロナ禍で、対面の外部コンサルは減り、オンラインでの相談が増え、コロナが、医療者間・医療者患者間・患者家族間のコミュニケーションを妨げ、意思決定過程に大きな影響を及ぼしている事例を前にし、コロナがもたらした倫理的問題とは何なんだということを考える日々であった。この問題に、恋水諄源(医師・形成外科)は、「コロナは、医療現場にどのような困難をもたらしたか」を現場を預かる医師の目で、「感染管理」「診断」「治療」の観点から描写し、はじめは分からないことが分かってきたことで氷解する問題もあるが、残る問題があり、また、「分からない」ときにどう向き合うのかという中で、プロフェショナリズムとの関わりを指摘した。武ユカリ(看護師・教員)は、訪問看護事例を通じて、「これまであった倫理的問題」として「家族の問題に関わる意思決定問題」「良好な多職種連携」と、新たな倫理的問題として「職員への感染リスク」「感染症対策への社会的認識」を指摘した。松村優子(看護師)は、院内で倫理コンサルテーションの担当した中で、陽性患者の透析事例を示し、様々な倫理的課題に気づく過程を、4分割表を使いながら分析し、できなかったことに悔いる看護師の姿に「責任」ではない、「徳」という価値に託した。峯村優一(生命倫理研究者)は、医療プロフェショナリズムの観点から、「プロフェショナリズムに反する行動がとられる理由」を分析した。

前年度は、以上のメンバーでWSを実施したが、本年は有力な助っ人として、中岡成文先生(元大阪大学臨床哲学教授)のご参加をいただき、中岡からは、医療はこれまで、「不定形」「不確実」なことを、「定形」「確実」にしながら乗り越えて来た、その意味で、コロナ問題は新しい倫理問題ではないが、対処するスタンスについては、新しいフェーズに入ったのではないか、その向き合い方として、「倫理的ジレンマ」「プロフェショナリズム」「徳」が関わる中で、「乗り越えていく力」「乗り越え方」を議論することが必要と、発表者の言葉を受けて指摘した。

聴衆からのQ&Aでは、現実の厳しい状況の中で対応することは医療者に過度の負荷をかけているのではという指摘や、「安全」と「安心」との関係や、看取り等で臨床倫理的な関わりがあるのかについて質問をいただき、一部文章で、一部口頭で返答をした。 コロナは、不定形で不確実をもたらしたが、それはこれまでの医療が直面してきたものとどう違うのか。そのような問題を一人で抱え、「連携」「協力」「支援」なしで行うと、「不安」が「不信」を招き、「不満」となっていく。このような「不定形」「不確実」の対処のためにようやく実装されつつある倫理コンサルテーション・倫理カンファレンスの鼎の軽重が問われる。

コロナの不定形さと不確実さは、より強力に「対話」を中心として「連携」「協力」「支援」が必要とするが、それがコロナのリスクから難しくなっているところに、ジレンマがあり、これを超えるには、人の力と、組織の力が必要であり、ここに「プロフェショナリズム」や「徳」、あるいは「ガーバナンス」が関わる。コロナ問題は私たちに、日常的に見ているがじっくり考えたりしていないものの価値を気づかせ、深く考えるきっかけを作った(松村の発表にあった「面会の意味の再確認」)。そして、コロナは、人の力、組織の力をあらわにするもので、まさに「哲学」を実践する場であった。

ZOOMでのWSは正直、緊張感が高い。特に実施後10分で途切れた際には、オーガナイザーとしてどうすればいいのかと不安感が増したが、すぐに普及し、登壇者に支えられ、また、約70名の聴衆からのQ&Aにも刺激され、所定の議論は終わった。しかし、コロナ禍は終わっていない。

稲葉一人(中京大学法務総合教育研究機構)