2020年12月6日(日) 14:30~16:00
ミーティングルームA(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
松原洋子(立命館大学)

  • COVID-19 パンデミックと生命倫理の諸問題
      児玉聡(京都大学)
  • COVID-19 の生政治と生命倫理
      美馬達哉(立命館大学)

オーガナイザー報告

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、2020年4月、生命倫理学会に「COVID-19の倫理タスクフォース」が発足した。本シンポジウムはこのタスクフォースと協力して実施された。同メンバーの児玉聡氏(京都大学)と美馬達哉氏(立命館大学)をシンポジストに迎え、われわれが直面している諸問題について、パンデミックの生命倫理という俯瞰的な観点から問題を整理し、検討する機会とした。

児玉報告「COVID-19パンデミックと生命倫理の諸問題」では、公衆衛生の倫理の三つの課題として、市民的自由の制限、公平な資源配分、予防行動の責任が紹介され、時間の制約から主に前二者について検討された。「市民的自由の制限」については、他者危害、全体の利益等は公衆衛生政策の正当化の根拠になるが、不利益を受ける者への配慮も必要であることが示された。「公平な資源配分」では、通常の「最大救命」の発想によると高齢者が後回しになるという問題が出てくるが、世界的には合意はないこと、また日本でも危機的状況に備えて他国の議論も参考に公平なルール作りをする必要があることが指摘された。

続く美馬報告「COVID-19の生政治と生命倫理」では、「生政治」の観点からパンデミックという例外状態に関わり生じる生命倫理の課題が論じられた。美馬氏によれば、コロナ禍で医療資源配分の議論がなされるのは、「利益の最大化」という帰結主義に基づくが、その前提には個人・集団の生命/生活の善さを測定することが可能な社会と測定を実現するテクノロジー、すなわち生政治が存在する。災害時の倫理的ジレンマのガイドライン化や心理学化が、例外状態の「正常化」による倫理的な思考の退廃をもたらすこと、脆弱性のある人びとの日常経験を見直すことが、例外状態という窓から日常を倫理的に再考するチャンスとなる、として報告を締めくくった。

ライブ配信された本シンポジウムには130名以上が参加した。時間の制約から質問者は7名に限られたが、活発な質疑応答がなされた。COVID-19対応のガイドラインを用意することの倫理的課題に関する質問などがあった。これに対しては、例外状態では、目の前の患者とそれ以外の患者を比べるという行為が入るが、目の前の患者を大切にするのが基本的な医療倫理であること(美馬氏)、非常事態と通常事態の区別は難しいが重要であること(児玉氏)などの応答があった。

松原洋子(立命館大学)