2020年12月6日(日) 14:30~16:00
ミーティングルームC(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
徳永純(狭山神経内科病院)

報告者
原敬(さいたま赤十字病院)
太田奈津子(狭山神経内科病院)
門岡康弘(熊本大学)
田代志門(東北大学)
服部健司(群馬大学)
堀井泰明(天使大学)

オーガナイザー報告

この数年、我々はヨーロッパ北西部で発展したMoral Case Deliberation (MCD) を紹介してきたが、代表的なジレンマ・メソッドを例にとると、ケースの問題点(ジレンマ)を一つに絞ることや、10段階のステップをそのまま踏襲して実践したりすることの難しさが指摘されている。そこで冒頭、MCDの理念として重要な①参加者は職種を超え、対等に議論する②ケースの理解を深めることに主眼を置く③結論を急がない、の3点のみを掲げ、原をファシリテーター、徳永をケースブリンガーとしてケースを検討した。

取り上げたのは、不整脈を指摘されていたのに医者嫌いのため放置し、脳梗塞を発症した73歳の男性のケース(実例をプライバシーに配慮し改変)である。男性が支配的に振る舞うため、かつて同居していた長男夫婦は別居している。長男はこの男性の70歳の妻が認知症ではないかと疑っていたが、男性は妻の受診も阻んでいた。男性の入院を機に妻は認知症と診断され、自宅が荒れていることが判明する。また妻には偶然、肺癌も見つかる。幸い男性は後遺症なく数日で回復したが、この夫婦に長男も同席させ病状説明したところ、男性は長男が勧める福祉サービスの導入を拒否し、妻の認知症や肺癌などあるわけないと激高してしまう。

パネラーからは家族関係を理解するための質疑が続いた。田代は主に家族の中の妻の立場、服部は主に長男のかかわり方に注目して家族像を描き出し、家族全員が一堂に会する形での病状説明の問題点が浮き彫りにされた。また太田は看護師の視点から、医療者が信頼関係を築けておらず、もっと対話を増やすべきだと指摘した。視聴者からは、このケースを具体的にどう解決していくのか見えてこないという趣旨の質問があった。確かに現実的な選択肢の中から選ぶような形で結論を導いたわけではなかったが、ケースの理解を深めたことで、医療者は男性に対し長男の立場を代弁するように映ってしまい、男性ともっと対話し信頼を得る必要があること、妻単独の面談の機会を設け、妻本人の意向を聞き出す努力が必要なことが課題として浮かび上がった。

ケース検討終了後、臨床倫理カンファレンスの方法論について討議した。原はファシリテーターとして、相撲や柔道の受けのように、出された意見、考えを深めるような意図で問いを重ねてきことを説明した。門岡、堀井ほか各パネリストからは、現在、MCDの導入が試みられる中で、定式を外し自由に議論することの意義を確認し、新たな経験を得られたとの発言があった。今回のケース検討でも、男性、妻それぞれと医療者の信頼関係が構築できなければ、実際の問題解決には一歩も踏み出せないことを解き明かしており、ケースの理解を深めることの重要性を見出し、方法としての利点を示したと言えるだろう。

徳永純(狭山神経内科病院)