2020年12月6日(日) 16:10~17:40
ミーティングルームB(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
竹下啓(東海大学医学部)

  • 遺伝子例外主義の現在と日本における診療上の遺伝情報の取扱い
      丸祐一(鳥取大学地域学部)・高島響子(国立国際医療研究センター)
  • 診療記録における遺伝情報管理の実態調査
      鈴木みづほ(東海大学医学部)
  • 遺伝情報の共有とゲノム医療実地における課題
      平沢晃(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)

オーガナイザー報告

今日、ゲノム医療は、通常の診療となりつつある。がん薬物療法のコンパニオン診断としてのBRCA遺伝子検査、生殖細胞系列の遺伝子変異を含むがん遺伝子パネル検査、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の既発症患者に対するリスク低減手術が、あいついで保険適用となった。つまり、希少な単一遺伝子疾患の検査が主体であった時代に比較すると、はるかに多くの遺伝情報が通常の診療において使われている。そのような現実の中で、遺伝情報を通常の診療情報と切り離して管理することは、円滑な情報共有や適切なチーム医療を阻害し、患者に不利益を与えることも懸念される。このシンポジウムは、遺伝情報がセンシティブな情報であることを共有した上で、遺伝情報は通常の診療情報とは異なるとする考え方(遺伝子例外主義)を振り返り、ゲノム医療の時代において、診療記録としての遺伝情報の適切な管理のあり方を模索することを目的に企画した。

丸と高島は、「遺伝子例外主義」に関する議論とその現状、並びに、現在わが国において診療上の遺伝情報の取扱いがどのように規定されているかを紹介し、ゲノム医療が現実のものとなった今、実臨床において遺伝情報が取り扱われる機会やその量・質が当時と大きく異なることから、改めて遺伝子例外主義について議論する意義があると指摘した。

鈴木は、ゲノム医療の中核的な20施設の臨床遺伝専門医20名に対するインタビュー調査の結果、遺伝情報を通常の診療記録と同様に管理しているのは5施設に過ぎず、他の15施設においてはアクセス制限を設けていた。アクセス制限を設ける理由として、ガイドラインの不存在、遺伝情報漏洩への懸念、遺伝情報に対する認識の多様性があると指摘した。

平沢は、遺伝情報のアクセス制限によって患者に実際に不利益が生じた実例を提示した。そして、電子カルテこそが最も安全な情報の「金庫」であること、遺伝情報を他の診療情報と区別することが遺伝差別を助長している可能性を指摘し、遺伝子例外主義の呪縛から抜け出すために、医療提供者、患者、市民に対する教育、啓発、情報共有が重要であると訴えた。

シンポジストの報告の後、生命保険加入の権利の保護、がん未発症のHBOCに対する保険適用の問題、遺伝情報を含む診療情報の二次的利用、遺伝情報が特別に管理されるようになった歴史的背景等について、参加者との間で議論を行った。

竹下啓(東海大学医学部)