2020年12月6日(日) 16:10~17:40
ミーティングルームA(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
一家綱邦(国立がん研究センター医事法研究室)
藤田みさお(京都大学iPS 細胞研究所上廣倫理研究部門)

概要

 わが国で再生医療を実施する全ての関係者が守らなくてはいけない法律=「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(以下、再生医療法)」が2014年11月に施行して、まもなく丸6年になろうとしています。現在、厚生労働省(厚生科学審議会・再生医療等評価部会)では、この法律を改正するための議論が始まっています。再生医療法は、再生医療が行われる場面を「研究」と「治療」の2つに分けて、法の規制対象にしています。そもそも、再生医療法が6年前にできた背景には、再生医療「研究」を進めるための制度や手続を整備することとあわせて、「治療」として再生医療を実施する医療機関には様々な問題があるのではないかと懸念されたことがありました。
 現在、わが国で行われている再生医療法下での「治療」とは、国民健康保険の適用のない「自由診療」のことですが、自由診療で実施される医療の中には、「研究」によって安全性や有効性が確認されていないものも多く、国の監視の目も届いているとは言えません。特に、2010年に京都の自由診療クリニックで「再生医療」を受けた患者の死亡事件があったこと、効果の疑わしい医療行為が「再生医療」の名の下で高額な値段で実施されていたことが、自由診療の中でも再生医療分野に限って特別に、法律の規制を必要とした理由でした。
それでは、法律の下で再生医療が実施された6年間で、再生医療はどのように行われてきたのでしょうか?再生医療法は上記の問題に対応できているのでしょうか?

 この企画では、治療として行われている再生医療について、特に次のような点について、市民の皆さんのために情報提供や問題整理をしたいと考えています。
①患者さんに治療を届けるために、行われる研究とはどういうものか、治療と研究はどのように違うのか
②再生医療とはどういう医療なのか
③再生医療法の仕組みはどのようなものか、どのような問題があるのか
④再生医療を実施するために医師が受ける手続や審査はどのようなものか、どのような問題があるのか
⑤治療として行われる再生医療を医療機関で受ける時には、どういったことに注意をするべきかetc.

 この企画は、一家と藤田がそれぞれ30分お話をして、上記のような情報提供や問題整理を行います。その後、参加者の皆さんの質問や疑問に答えながら、反対に、皆さんがご存知の再生医療の実態について教えて頂きながら、再生医療や再生医療法に関する理解を深めていきたいと考えています。生命倫理学会会員の皆さんや会員以外の市民の皆さんの参加をお待ちしています。

キーワード: 再生医療、再生医療等の安全性の確保等に関する法律、自由診療、研究と治療の違い

オーガナイザー報告

一家綱邦(国立がん研究センター 医事法研究室)、藤田みさお(京都大学 iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門)、佐藤雄一郎(東京学芸大学 教育学部)の3名により、「市民公開企画:再生医療の治療と研究はどう違うのか?―治療を受けたいときに考えること―」を大会2日目の夕方の時間帯に開催した。幸いにして、211名の会員・非会員(高校生、大学生、会社員、公務員、自営業、主婦、医療関係者、再生医療関係者、弁護士、マスコミ関係者など)の参加を得ることができた。

「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(以下、再生医療法)が2014年11月に施行して丸6年が経過し、厚生労働省(厚生科学審議会・再生医療等評価部会)では、この法律を改正するための議論が始まっているが、登壇者らは自由診療で実施されている再生医療とそれを規制する再生医療法の運用の現状に危機感を抱いており、その問題状況について市民の方々に説明したい、問題意識を共有してほしいと考えて、本企画を立案した。

基調報告では、①患者さんに治療を届けるために、行われる研究とはどういうものか、治療と研究はどのように違うのか、②再生医療とはどういう医療なのか、③再生医療法の仕組みはどのようなものか、どのような問題があるのか、④再生医療を実施するために医師が受ける手続や審査はどのようなものか、どのような問題があるのか、⑤治療として行われる再生医療を医療機関で受ける時には、どういったことに注意をするべきか…こういった点に焦点を当てた。

様々な参加者がいる中で、報告内容の専門性の高低のレベル感には心を砕いたが、期待していた程度の理解を参加者は得ることができたようで、ZOOMのQ&A機能を使った質疑応答では、質問が絶えることはなかった。質問を頂いたこと=関心を持って頂いたことであるとすれば、自由診療で実施される再生医療に対する疑問や再生医療法の運用状況に対する問題意識を持って、自分や親しい人が治療を受ける時の留意点などを認識して頂くことができたのではないか、と思われる。また、再生医療の問題に限らず、医学の発展(治療法の確立)のための研究のあり方についても、今後各位が考えを巡らせることができるのではないか、という期待も同時に抱いている。

オンライン形式での開催には不安もあり、実際に開催してみて、参加者のリアルな反応を窺い知ることができなかったことは残念だったが、終了後のアンケートに寄せられた感想や意見を読むと、満足度は高かったようであり(回答数117名:とても満足52名、満足63名、どちらでもない2名、不満0名、とても不満0名)、開催目的は達成できたと考える。

本学会の市民公開企画は、特定分野の専門家である会員と、生命倫理的テーマに様々なレベル感で関心を持つ又は持たない市民とが相互交流する場である。様々な開催形式がありえる中、今回我々は教育的報告をメインにしたが、専門的事項を市民(非専門家)が理解できるように伝えることの難しさ及び大切さと、理解できたことに基づき発せられた市民の問いの鋭さを再認識する機会を得られた。

貴重な場を設定してくださった大会実行委員の皆様には、この場を借りて深く御礼申し上げます。ありがとうございました。

一家綱邦(国立がん研究センター医事法研究室)

 


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