オンデマンド配信

01. 尊厳概念理解への一試論(キャンセル)
  小田中奎太(東北大学大学院情報科学研究科)
02. 自己所有権から見た臨床研究におけるインフォームド・コンセントの倫理的意義(キャンセル)
  種田佳紀(埼玉医科大学医学部)
03. 自律概念の再構築
  森禎徳(群馬大学)

演者報告

自律概念の再構築
森禎徳(群馬大学)

合理的な自己決定の尊重という「自律」の解釈は今日、公的利益が問題になる局面において倫理的な葛藤の原因となっている。例えば有限な医療資源を配分する際には、すべての個人の欲求を充足させることができない場面が必ず訪れるが、単なる自己決定の尊重のみを意味する「自律」は、自己利益を優先する個人の「合理的」選好を制限できない。

本発表では、「自律」をその原点とも言えるカント的定義を中心に再構築し、「倫理的な自己決定」ないし「責任ある自己決定」として倫理学の原則とする。これによって個々人の自己決定は単なる利己的な決定ではなく、社会の成員としての責任や倫理的制約を伴う理性的な判断に基づくべきである、とする理論的根拠が明らかになる。その一方で、カントの自律概念には具体的な実質の欠如という限界が付随するため、「公正としての正義」を自律概念の上位概念とすることで、カント的自律概念の限界を克服し、具体的な現実において生起する倫理的諸問題に対して効果的な応答を行うことのできる、新たな自律概念を確立する。  さらに、自律概念を倫理的に再構築することで、個人の自己決定の倫理性を問うだけでなく、制度的強制によって医療費削減を実現しようとした結果、個人の医療を受ける権利が制限され、公的利益のために個人が犠牲となる事態を未然に防ぐ効果も期待しうる。