2020年12月6日(日) 10:40~12:10
ミーティングルームB(ZOOMライブ配信)
オーガナイザー
笹月桃子(西南女学院大学保健福祉学部・九州大学病院小児科)
- 「対話」は成り立っているか?
加部一彦(埼玉医科大学総合医療センター新生児科) - 小児医療における医師との対話:家族からみた協働意思決定のあり方
櫻井浩子(東京薬科大学薬学部) - 一人ひとりの子どもに個別の価値を創成する対話
笹月桃子(西南女学院大学保健福祉学部・九州大学病院小児科)
オーガナイザー報告
重篤な病態や重度の障害を抱える子どもの多くは、自身の意向を表明できない。自己決定に基盤が置かれた現代の医療現場において、極めて脆弱な立場にある。このような子どもたちのいのちに関わる医療やケアの方針を検討する際、家族と医療者の協働による意思決定が重要であることは周知の通りである。子どもにとり、より善い判断・決定に至るには、多面的なアプローチや支援が不可欠であることは充分に推察される。しかし我が国の医療文化に馴染む、実践につながる現場還元性の高い理論は未だ見出されていない。成人領域において、アドバンス・ケア・プランニング(ACP:人生会議)やナラティブアプローチ、オープンダイアローグ、ディグニティセラピーといった本人の意思と語りを尊重した様々な支援としての方法論的概念が提唱されるなか、他者である私たちはいかに子どもたちの声無き声を捉え、それらを子どもの最善の利益に適う医療に反映できるのであろうか。
本シンポジウムでは、上述の背景と問いを共有した上で、この協働による代理意思決定の実像である家族と医療者の「対話」に着目した。
加部は、医師の立場から、この「対話」が双方向のやり取りとして成立していない可能性を指摘し、共通理解が難しい医療用語の使用についても言及した。日本小児科学会の「重篤な子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン」にも謳われ、また近年の医学教育のコアカリキュラムの中にも位置づけられる医療上の「話し合い」「コミュニケーション」とは具体的にどのような実践を指すのか、その内実・実質の把握と対話の基盤構築の必要性を強調した。
櫻井は、家族の立場から、対話に臨む家族の心理社会的な体験を報告した。話し合いにおいて、医師と分かり合えなかった、希望を伝えられなかったと感じた家族は6割を超え、両者のアンバランスな関係性が指摘された。子どもにとっての個別の最善の方針が見出されるために、話し合いのための環境整備と併せ、家族と医療者双方の歩み寄りとつなぎ役の必要性が浮き彫りにされた。
笹月は、対話の当事者(医師)及び現場の観察者(コンサルタント)の複視眼的立場から、まずは小児医療現場の対話の多元性と主語の不在という特異性を指摘した。その上で、対話で使用される概念的言語の曖昧さと、主体者不在のまま対話者同士が共感関係に陥りやすい現状と危惧を報告した。
シンポジストの報告を受けてフロアからは、理想的な対話実現が目的ではなく、それだけでは理念の実現は難しいのではないかとの指摘があがった。一方で、実際の家族の対話に際する体験を聞くこと、そのデータが質的に検証されることの重要性は広く共有された。さらに、対話の関係性において、医療者からの推奨はどのように伝えらえるといいのか(例えば「私の子どもだったら」という表現の是非など)議論された。
医学的事実の共有に留まらない価値的な議論をも含むこの対話は、両者間のどのような関係性の中で、いかなる言説で構築され、子どもの医療方針に反映されるに至っているのか、引き続き現場から把握する意義は大きいと考えられた。
笹月桃子(西南女学院大学保健福祉学部・九州大学病院小児科)