オンデマンド配信
- 16. 臨床倫理コンサルテーションにおいて、確認すべき内容を初回返答とする提案
金田浩由紀(関西医科大学総合医療センター)
武ユカリ(関西医科大学看護学部) - 17. 「臨床倫理」への具体性のある説明の提案―個人の医療・ケアにおいて、異なる価値を比較考量すること―
金田浩由紀(関西医科大学総合医療センター)
武ユカリ(関西医科大学看護学部) - 18. 地域における倫理的支援の検討~りんりカフェの取り組みをとおして~
恋水諄源(市立福知山市民病院)
松村優子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻博士後期過程)
武ユカリ(関西医科大学看護学部在宅看護学領域)
峯村優一(京都府立医科大学 医学生命倫理学)
演者報告
臨床倫理コンサルテーションにおいて、確認すべき内容を初回返答とする提案
金田浩由紀(関西医科大学総合医療センター)・武ユカリ(関西医科大学看護学部)
当院での臨床倫理コンサルテーションの依頼は、大半は現在進行中の治療方針の相談で占められる。今回、その実務上の経験から臨床倫理コンサルテーションにおける以下の提案を行った。
当施設では、活動初期には概ね以下のような手順で行っていた。依頼⇒情報収集⇒分析・検討⇒助言(文章化)(⇒以降省略)。臨床倫理コンサルテーションチーム内での検討以外に、必要時に依頼者を交えた多職種での事例検討会を行ってきたが、それは分析・検討の段階と考え、文章による返答の前に行っていた。しかし、実際には依頼、情報収集の時点で最終的な判断に必要な情報がすべて揃っていることはほとんどなく、確認すべき内容が多くある。この時点での検討会では聴取するべき内容の確認が主となり、深く検討するにはもう一度検討会を行うことになる。
そこで最近では、依頼があれば可能な情報収集を行った後、その時点で文章による返答を行っている。今までの経験から主な依頼内容に対する初回返答時での確認事項をまとめた(PDFファイルにて配布)。実際の返答には、事例固有の状況を踏まえ、確認内容が判断の指標となること、それにより判断される内容も記載することもある。これらはコンサルタントとして1人からでも返答できるものであり、教育の目的以外ではこの段階で担当医療者が集まる必要はない。必要に応じ、電話での対応も併用する。担当医療者によってはこの返答のみを以って、患者・家族との間で治療方針の決定が為されることもあった。必要であればその後に、価値判断を伴う多職種での事例検討会を行うことになる。
まとめると、以下の手順を提案したい。依頼⇒情報整理⇒初回返答(確認事項について)⇒状況分析⇒比較考量(事例検討会)⇒二次返答(推奨選択について)。事実確認の助言と価値判断を伴う助言とを分けることを特徴とする。この手順により、コンサルテーションを円滑に進めることが出来ると考える。なお、この初回返答は担当医療者に不足する情報を補ってもらう手順であり、臨床倫理コンサルテーションに専任者がいて患者・家族に直接面談して確認することが可能な施設には必要無いかもしれない。また、後ろ向きに事例を検討する場合にはこの通りではない。
「臨床倫理」への具体性のある説明の提案―個人の医療・ケアにおいて、異なる価値を比較考量すること―
金田浩由紀(関西医科大学総合医療センター)・武ユカリ(関西医科大学看護学部)
臨床倫理は医療者の間で近年徐々に認知されて来たが、その重要性に比して未だ十分とは言い難い。その理由の一つに、初めて聞く者にとって臨床倫理が何を指すのか分かりにくいという問題がある。そこで、臨床倫理の活動が広がることを期待して、より具体性のある行為で説明することを試みた。
臨床倫理とは何か。臨床倫理への説明として必須の要素は、医療・ケアに関すること、主に治療方針の決定にまつわること、患者の個別性を尊重した関わりであること、である。おそらくコンセンサスがあると思われる臨床倫理のイメージは、同じ疾患と同じ進行度である(つまり診療ガイドラインなどでは同じ治療の推奨になる)患者Aと患者Bとで、患者の意向や社会的状況により異なる治療やケアの方針を取り得る、というものであろう。
倫理とは何か。臨床倫理は応用倫理の一つとされる。倫理学の主要な対象の一つに価値がある。臨床倫理的に悩ましい事例では生命倫理4原則での原則同士の対立として表現できることが多いが、それは異なる価値の対立のことである。そこでは異なる価値の対立の中からより優先される価値を決めることにより、医療・ケアの方針を決めていく作業を行う。一般的に比較考量と呼ばれる行為に当たる。
そこで、臨床倫理とは「患者個人の医療・ケアにおいて、異なる価値を比較考量すること」という説明を提案したい。また、比較考量という言葉を用いない、より理解しやすい説明として「患者個人の治療・ケアにおいて、直接決めることが難しい時に、価値に置き換えて、優先される価値の選択により、治療・ケアの選択を考えること」も別の案としたい。これらの説明には、臨床倫理コンサルタントなどの特定の専門家のみが行うものではなく医療・ケアに係わるすべてのものが行うものである、との意図もある。これらの具体的な説明は、臨床倫理の裾野を広げるために必要なものと考える。
地域における倫理的支援の検討~りんりカフェの取り組みをとおして~
恋水諄源(市立福知山市民病院)・松村優子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻博士後期過程)・武ユカリ(関西医科大学看護学部在宅看護学領域)・峯村優一(京都府立医科大学 医学生命倫理学)
倫理的判断が困難な臨床事例について助言を行う倫理コンサルテーションが広まる一方で、小規模医療施設や介護施設ではこれを実施する組織を形成するのが難しく、現場で問題に直面する医療・介護関係者への支援は不足している。「りんこん研究会」(京都府)は、倫理コンサルタントの相互学習⽀援の場をつくること、地域の医療福祉職等に対する倫理コンサルテーションの仕組みをつくることを目的として2019年より活動を開始した。
当研究会は京都府近辺の医療介護関係者を対象に、ワークショップ「りんりカフェ」を開催し、地域においてどのような倫理的支援のニーズがあるのかを調査した。本発表はその結果を報告するものである。参加者は看護師、研究者、大学院生、医師などを含む20名であった。3グループに分かれて行ったディスカッションでは、患者の立場に立つことの困難さ、患者の信念・価値をどう受け入れるか、患者は理性的な意思決定をしているか、施設間の微妙な関係性、方針の共有、支援にどう繋げるか、Advance Care Planning (ACP)・ナラティブな情報の共有、関係者間の調整といったテーマが議論に上がった。また、終了後のアンケート調査では、意思決定プロセス、ACP、事前指示、本人にとっての最善の利益、地域連携における課題、倫理教育といったテーマに関する問題意識が読み取れた。今後受けたい倫理的支援の形式として、研究会・勉強会の希望が最も多く、他者の事例に基づいた事例検討会、カフェでの討論やネットワーク作りの希望が比較的多かった。
COVID-19の影響で対面での活動は行いにくくなっているが、オンライン会議等のツールを利用し引き続き取り組みを継続して、地域における倫理的支援のあり方を模索していきたいと考える。