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  • 14. Rare Disease 患者はどのように診断に辿り着くのか―HAE 当事者の経験に関する質的研究から
      磯野萌子(大阪大学大学院医学系研究科)
      小門穂(神戸薬科大学)
      加藤和人(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 15. 質問票法による患者団体と製薬企業の意識のギャップ調査~患者団体と製薬会社の協働に関する調査(第一報)
      吉田智美(筑波大学大学院理工情報生命学術院システム情報工学研究群(博士課程))
      宿野部武志(一般社団法人ピーペック)
      畑中和義(NPO 法人患者中心の医療を共に考え共に実践する協議会)

演者報告

Rare Disease 患者はどのように診断に辿り着くのか―HAE 当事者の経験に関する質的研究から
磯野萌子(大阪大学大学院医学系研究科)・小門穂(神戸薬科大学)・加藤和人(大阪大学大学院医学系研究科)

本発表では、遺伝性血管性浮腫(HAE)患者へのインタビュー調査結果から、Rare Disease患者が診断に至るまでの実態に関して報告致しました。Rare Diseaseでは、正しい診断までに長年を要することが知られており、日本を含め国際的にも早期診断に向けた取り組みが進んでいます。しかし、この期間の実態について、質的研究などに基づく報告は国際的にも数少なく、更に日本では、量的調査での報告も極めて少ない状況があります。 この状況に対して我々は、実情への把握が非常に限られたままに政策的な問題解決に関する動きが行われていることに問題意識を持ちました。そこで、実情の把握およびその把握に基づく現在の対策についての評価や検討を目指し、インタビュー調査を実施しました。本発表では、Rare Diseaseの1つである遺伝性血管性浮腫(HAE)の患者へのインタビュー調査の結果、そして考察について報告しております。

今回、web上での発表であったため、質疑応答のやり取りが行えなかったことは大変残念に感じます。しかしその状況だからこそ、若手優秀賞という栄えある賞にお選びいただき、より多くの方に注目される機会をいただいたのは、研究参加者である患者さんのお気持ちに僅かでも応えられたようで、本当に有難く存じます。

まだ未診断患者の方は、全国に、また世界中に多くおられるはずです。そうした患者さんを助けられる医学や医療の在り方に少しでも貢献できるよう、今後、様々な方との意見交換を行いながら、研究を進めたいと考えております。

最後になりましたが、本研究の参加者の皆様、参加者募集などにご協力いただきました方々、共同研究者の加藤和人教授・神戸薬科大学の小門穂准教授に、心より御礼申し上げます。

磯野萌子(大阪大学大学院医学系研究科)

質問票法による患者団体と製薬企業の意識のギャップ調査~患者団体と製薬会社の協働に関する調査(第一報)
吉田智美(筑波大学大学院理工情報生命学術院システム情報工学研究群(博士課程))・宿野部武志(一般社団法人ピーペック)・畑中和義(NPO 法人患者中心の医療を共に考え共に実践する協議会)

【背景】 医療技術の進歩や発展はめざましく、特にがんや希少疾病の治療は今後も様々な研究が行われるであろう。これらの開発においてはELSIが多く含まれている。また近年、PPIの推進が我が国においても少しずつ聞かれるようになってきており、製薬企業も当事者・市民との係わりをPatient Centricity活動として推進しようとしている。PPIは従来、当事者・市民と間接的な関係が主であった製薬会社の関係性に変化をもたらす。しかしながらこの関係性の前提となる一定の約束・契約の基での相互理解・相互尊重は未成熟であると考えられる。

【目的】 患者団体・支援団体と製薬会社等ヘルスケア関連企業が、互いをどのように理解しているかの意識のギャップについて明らかにする。

【方法】 Google フォームを利用した匿名のインターネット調査。調査対象は①病気をもつ人・家族・市民、患者団体・患者支援団体に所属する人② 製薬会社等ヘルスケア関連企業に所属する人の2グループである。実施期間を2020年5月8日(金)~5月14日(木)とし、5月22日に実施されたイベント「患者団体と製薬企業の新たなパートナーシップを目指して」の参加募集と同時にアンケート依頼をメール、インターネット、SNS等で告知し広く協力を呼び掛けた。データ利用目的等を明示する画面を表示し協力の意志を確認した。両群に対し、「交流や支援」「パートナーシップ」「企業の役割」に関する回答をもらった。総回答数は109件。①群(以下当事者群)54名②群(以下企業群)55名で比率は半々であった。このアンケート結果とイベントの意見交換の内容を分析した。イベントはプレゼンとワークで構成され、Zoomで行った。ワーク内容は個人的な体験を聞くものではなく、テーマに対する意見交換である。ファシリテーターは同様のイベント経験が豊富なスタッフが行った。 分析はSPSSを使い統計的に群間のカイ二乗検定を行い、それぞれの群ごとで回答項目の相関分析を行った。

【結果】 アンケートにおいて「交流や支援」、「パートナーシップ」「企業の役割」いずれも回答の傾向がほとんど一致することはなく、認識のギャップが現れた。 1.交流や支援は、当事者群の方が企業群よりも十分だったと考える傾向であったが、それぞれの統計的な有意差はでなかった。 2.企業群47%、当事者群40%が組織のポリシーや指針は定められていないと答えた。 3・パートナーとしての親しみを感じるかとの問いに対して、企業群の55%が感じると答え、当事者群の31%が感じないと回答した。2群間に統計的に有意な差がありました。 3.両者は対等かどうかの質問に対して、企業群の45%、当事者群の29%が対等でないと答え、31%と39%が対等とした。しかしこの2群間には有意な差はみられていない。 4.企業は利益志向か患者志向かの問いに対して、両者ともに利益志向との回答が多かった。 記述式では、それぞれの立場での阻害要因があげられた。交流を促進するためには、対話の機会や相互理解を阻害しないガイドラインの検討などの意見があった。 5.当事者群内で「『交流と支援』と『支援とパートナーとしての親しみ』」に高い相関がみられた。企業群では高い相関はみられなかった。

【考察】 本調査の回答者が協働イベントに興味をもつ集団であることを考えると参画する意識が高いであるということは考慮にいれる必要があると考えられるが、この研究によって同時に得られた回答から企業と当事者意識の差というものが明らかになった。 今回はPPIについて直接的に聞いてはいないが、PPIの本質は立場を超えた協働である。その協働の 目的は、「より良い医療を創る」ことである。しかし患者と企業のパートナーシップは理想と現実とのギャップはまだまだ大きいと思われる。企業側が求めるもの、当事者が求めるものの違いを超え、相互理解を進めていく必要がある。そのための場の必要性は企業側も当事者側も挙げており、その場が不足している。それはアンケートの回答にあるように、交流や支援に対するルールや規制が具体的ではないことが考えられる。そのような業界の明確なルールがないということは、企業ごとで検討しなくてはならず、企業の経営層の意識が大きく影響する。 このような議論は今後も継続して続けていくことが肝要である。