2020年12月6日(日) 10:40~12:10
ミーティングルームC(ZOOMライブ配信)
オーガナイザー
加藤和人(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学分野)
古結敦士(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学分野)
報告者
磯野萌子(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学分野)
古結敦士(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学分野)
山本ベバリーアン(大阪大学大学院人間科学研究科)
オーガナイザー報告
近年、医学領域では、研究開発の段階から実用化や評価といった様々な段階において、患者・市民の意見を反映させたり、患者・市民と専門家が協働して取り組んだりといった活動が注目されている。諸外国においては国を挙げてそのような取組みが進められており、日本においても、2018年から国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が研究への患者・市民参画(PPI)を推進している。しかしながら、日本における実践報告やそれに基づく検討は数少なく、更なる知見の積み重ねが必要である。
そこで、本ワークショップでは、これまでに日本において医学研究、政策形成、医療実装という異なる文脈においてPPIを実践してきた3つの研究プロジェクトから話題提供を行い、参加者とともにPPIのあり方を考えることを目指した。
まず、磯野萌子より医学研究への患者参画について、RUDY JAPANにおける経験の報告があった。RUDY JAPANは難病・希少疾患を対象とするオンライン医学研究プラットフォームであり、2017年より登録を開始している。本プロジェクトにおける運営や研究の方向性は、患者と研究者が参加する「運営ミーティング」により決定され、これまでにも患者の視点や意向がさまざまな形で研究に反映されてきた。これまでの実践によって得られた成果として、研究が目指す成果が明確化され、さらにプラットフォームがもたらしうる広義の参加者の利益についても話し合い、実現されつつあることが挙げられた。一方で、多様な患者が継続的に意見交換に参加するための方法構築や患者参画の意義や効果の評価については今後の課題である。
次に、古結敦士より政策形成への患者参画について、コモンズプロジェクトに関する報告があった。コモンズプロジェクトはJST社会技術研究開発センター(RISTEX)の支援を受けた、難病・希少疾患領域の研究開発に関する政策形成のためのエビデンス創出を目指すプロジェクトである。エビデンス創出の方法として、患者・患者グループ関係者、研究者、政策関係者が参加し、継続的な熟議を行う「エビデンス創出コモンズ」を構築している。これまで、継続的にワークショップを開催し、必要とされる研究テーマの抽出および優先順位決定を行うとともに、振り返り意見交換会やアンケートによってそのプロセス自体も参加者とともに改善してきた。今後の課題として、参加者の負担感と十分な議論を行うことのバランスをどうとるのか、政策形成のための「エビデンス」の質として、一般性や客観性をどのように担保するのかといったことが挙げられた。
最後に、山本ベバリーアンより、新規技術の医療実装への患者参画について、AIDEプロジェクトの報告があった。AIDEプロジェクトは英国との共同研究(JST-RISTEXによる支援を受けている)で、ヘルスケア領域における人工知能(AI)技術を実装する際に、患者や医療専門職、AI技術者を含むさまざまなステークホルダー間の対話と関与を促進するためのプラットフォームを形成することを目指している。患者・市民参画パネル(PPIP)を設置し、患者・市民と研究者が継続的にプロジェクトについて意見交換を行うことを予定している。報告の中では、PPIPメンバーの募集やその準備など、その過程において直面した課題を英国と対比させながら紹介した。
その後行われたフロアとのディスカッションでは、特に患者参画に関する評価をどのように行うか、こういった取り組みに積極的ではない患者・市民の声や少数意見をどのように拾い上げることができるかといったことについて、活発な意見交換がなされた。さらに、このような実践や経験を共有できるようなネットワークや意見交換の場をつくっていくことの重要性についても話し合われた。
加藤和人(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学分野)
古結敦士(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学分野)