2020年12月6日(日) 9:00~10:30
ミーティングルームC(ZOOMライブ配信)
オーガナイザー
北原秀治(東京女子医科大学解剖学教室)
吉田智美(筑波大学理工情報生命学術院システム情報工学研究群)
報告者
杉原正子(独立行政法人国立病院機構東京医療センター精神科)
細田満和子(星槎大学)
宿野部武志(一般社団法人ペイシェントフッド)
オーガナイザー報告
COVID-19(新型コロナウィルス)流行下において、専門家や当事者から様々な提言がなされている。たとえば、2020年3月31日、生命・医療倫理研究会有志による「COVID-19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言」が公開され、その後、当事者団体などから、相次いで「命の選別」を懸念する声明が出された。これらの声や発信は貴重ではあるが、「対話」や「協働」には至っていない。
そこで、日本生命倫理学会「当事者・市民協働参画を考える」部会は、「命の選別を行うべきか否か」という二項対立に陥ることなく、「人工呼吸器等の医療資源の不足の事態に関して、何を考え、何を感じるか。」(論点①)、および、「この件について当事者・市民も含む多様な立場で『対話』や『協働』を行うためには、どのような方法があるか。」(論点②)の二点に関して様々な立場からざっくばらんに意見交換することを目的として、本ワークショップ「当事者・市民協働参画と新型コロナウィルス(COVID-19)パンデミック」を企画した。
杉原正子(精神科医、当部会部会長)は、当部会や発足の経緯、これまでの専門家や当事者の声の内容を紹介した後、論点①について、医療資源不足への考え得る対処法を挙げ、医療資源不足自体の予防策への注目を促した。また、論点②に関しては、地域社会などの、身近かつ小さな共同体から「当事者・市民協働参画」を広めていくことを提案した。
細田満和子は、COVID-19流行下では、障がいや病いのある人や低所得者、外国人労働者など、日常的に脆弱な(vulnerable)立場にある人たちが、命の価値を低められ、より困難な状況になること、また、医療・介護といった社会資源をCOVID-19の感染者に分配する必要が生じ、資源を常態的に利用していた弱者への配分がひっ迫してきていることへの懸念を述べ、弱者の声をどのように拾い上げ、誰がどのように政策等を決めるか、当事者を含めた諸ステークホルダーで討議していく必要があることを報告した。
宿野部武志は、透析当事者として、芸能人の死やメディアの報道に自分の体調を結びつけしまい、COVID-19の流行が自らの命を脅かすものとして恐怖を体験したこと、透析が世間からあまりよくないイメージを持たれていることから、治療困難な病気の治療は社会に対して迷惑なのではないかとまで思ってしまうこと、そして、医療の資源配分という言葉で看過することはできず、自分がどうしたいかも決めかねる当事者の複雑な感情を率直に報告しつつ、てんやわんやの現場で命の優先順位、余命、当事者の意思は、一体どこまで推し量れるのだろうかという問題提起も行った。
質疑応答、全体討論の場では、医療資源不足に甘んじることなく、常時から、資源不足への計画や対策の現状に着目し、弱者を守り、不足を予防するための策についての「当事者・市民」も交えた対話や議論が必要であること、また、やむを得ない医療資源不足への対処法を検討する際に、「現場の医療者を守る」「現場の医療者だけに判断の負荷を負わせない」という視点も大切なのではないか、といったことが活発に議論され、今後の議論への有益な問題提起となった。
北原秀治(東京女子医科大学解剖学教室)
吉田智美(筑波大学理工情報生命学術院システム情報工学研究群)