2020年12月5日(土) 15:20~16:50
ミーティングルームA(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー: 四ノ宮成祥(防衛医科大学校分子生体制御学講座)
指定討論者: 児玉聡(京都大学大学院文学研究科)

  • 合成生物学がもたらすデュアルユース問題について
      四ノ宮成祥(防衛医科大学校分子生体制御学)
  • 合成生物学並びにGenome Project-write の現状について
      相澤康則(東京工業大学生命理工学院)
  • 先端生命科学がもつバイオセキュリティ上の課題
      河原直人(九州大学病院ARO 次世代医療センター)
  • 先端生命科学の進歩に伴う倫理的・法的・社会的課題をどう捉えるか
      三成寿作(京都大学iPS 細胞研究所上廣倫理研究部門)

オーガナイザー報告

「ゲノム合成時代における先端生命科学技術とバイオセキュリティ」を企画して

先端生命科学技術の進歩がもたらす変革は、産業応用や製薬、食・農分野への応用、医療診断技術の向上のほか、遺伝子・ゲノム医療、再生医療、生殖補助医療などの治療分野に及ぶ。これらは、急速であるがゆえに社会システムとの乖離を起こし、結果予測に大きな不確実性や理解困難さを生んでいる。ゲノム合成時代に突入した今、合成生物学による病原体作成、Genome project-writeとゲノム合成の在り方、合成ゲノムの利用法など、社会応用への展望とバイオセキュリティの問題が顕在化してきている。そこで、本シンポジウムでは、技術進捗の現状を理解し、社会利用への展望を共有した上で、「ゲノム合成時代」のバイオセキュリティを考えるとともに、Ethical, Legal and Social Implications/Responsible Research & Innovation(ELSI/RRI)の意義や意味について議論した。

まず、オーガナイザーの四ノ宮が、本シンポジウム開催の趣旨説明を行った後、合成生物学がもたらすデュアルユース問題に関して、病原ウイルス人工合成の具体的事例を示し、社会に対する説明の必要性について言及した。そして、研究成果の利活用の成功例の提示が、今後の社会受容に向けての大きな鍵となると訴えた。

次いで、東京工業大学生命理工学院の相澤康則氏から、2017年に始まった「Genome project-write」がゲノム構築を基盤とした新バイオ産業の新しいムーブメントを国際協調のなかで加速させていることや、産業革命後の急速な工業化による地球環境の変化に対して合成生物学が新たな産業エコシステムの構築に繋がる技術であるとの説明があった。また合成生物学での「生物システム」の創造は「いのち」をつくることとは異なり、「いのち」とは飽くまでも他者との関係の中から構築されるものであるとの生命観が述べられた。

九州大学病院ARO次世代医療センターの河原直人氏からは、新興技術の利用施策が公衆・公共を意識し始めており、バイオセキュリティの議論が国際的に多様な展開を示していることが述べられた。その例として、米国の「国家バイオディフェンス戦略」は生物学的な脅威に対する効果的な活動の在り方を包括的に示しており、オーストラリアの「2015年バイオセキュリティ法」は一定の条件を満たす場合に拘束や強制的な施策を可能とするものである。これらは、人権、経済活動、環境に関わる問題が輻輳するなか、新たなバイオセキュリティの課題を私たちに提起した事案であるとの説明があった。

京都大学iPS細胞研究所上廣倫理研究部門の三成寿作氏は、技術と規制との間にあるギャップへの向き合い方、ELSIをめぐる公的研究資金の配分方法、オープンサイエンスの在り方の3点に焦点を絞り、さらなる議論の必要性を訴えた。特に、オープンネスに対しては、種々の局面で制限がかかる一方で、科学技術やそれから生まれるデータを真に社会に還元するための在り方が問われていると述べた。

フロアディスカッションでは、京都大学大学院文学研究科の児玉聡氏が、本シンポジウムでの論点が、大きく分けて教育、社会へのインパクト、日本における規制の問題、技術利用に対する倫理観の4点に集約されるのではないかとの総括的意見を述べた。また、合成生物学の技術を考慮した上での「生命の定義とは?」という本質的な議論にも発展した。  合成生物学を含めた新興生命科学技術のELSI/RRIの問題は、生命に対する根源的な問いとともに、社会活動、公衆衛生、バイオセキュリティなどの課題も孕んでおり、今後も継続的に本学会で多角的な側面から議論していくことが望ましいと考えられた。

四ノ宮成祥(防衛医科大学校 分子生体制御学講座)