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  • F01. 医療的ケア児と参加・地域共生を進める音楽活動と課題:教職員志望生を中心としたキャリア教育にかかわる検討を中心に
      山本 智子(国立音楽大学)
  • F02. 多様化する「家族」とケアの倫理 ――共同意思決定における「家族」の拡張とその課題
      秋葉 峻介(山梨大学/立命館大学)
  • F03. ホームレス支援ボランティアの動機と継続理由~ケアの倫理への示唆~
      神徳 和子(帝京大学福岡医療技術学部看護学科)

演者報告

医療的ケア児と参加・地域共生を進める音楽活動と課題:教職員志望生を中心としたキャリア教育にかかわる検討を中心に
山本 智子(国立音楽大学)

「医療的ケア児と参加・地域共生を進める音楽活動と課題:教職員志望生を中心としたキャリア教育にかかわる検討を中心に」に関して報告させていただいた。

報告では、医療的ケア児の乳幼児期からの地域参加を発展させるため、音楽活動を通して医療的ケア児の地域参加を支援することに期待される教職員志望生のキャリア形成に関する検討を試みた。

省察の過程において、医療的ケア児や支援の理解、音楽や教育の力や可能性、教職を志望する自信や意欲と共に、自身の課題や課題の解決のための目標が見いだされた。

活動の成果として、活動から現実的な問いを発見し、個人または連携・協働して問いを解決する経験を得られたことを挙げた。子ども、家庭、専門機関、地域と共に自身が成長する実感をもてたことにより、動機づけが高まるという成果も示した。新型コロナウイルス感染症の影響下にある現在も、専門機関の協力を得て、ICTを活用した遠隔環境での支援を継続しているが、実践を重ねる過程で、子どもと問いを見出し、解決することにより、医療的ケア児の乳幼児期からの参加および地域共生を支援する力の習得を支援する必要があると考えられることを指摘した。

多様化する「家族」とケアの倫理 ――共同意思決定における「家族」の拡張とその課題
秋葉 峻介(山梨大学/立命館大学)

本報告は、ケア倫理やフェミニズムの議論における家族概念の刷新によってケア関係がどのように変化したのかという問いを出発点としたものである。こうした背景を踏まえた報告の目的は、生と死をめぐる共同意思決定における患者と家族との関係に紐づけて家族概念再編の意義とその課題を明らかにしていくことである。このためにまず、伝統的家族概念と新しい家族概念との異同を整理した。続いて、医療やケアの営みにおいて新しい家族概念がいかなる意味や役割を与えられているのか分析を行った。

以上の結果として、新しい家族/親密圏においても家族とケアとの強固な結び付きが確認された。また、患者にとっての最善や患者の自己実現について患者の主体性が発揮できる関係を医療・ケアにおける共同意思決定に取り込める点で寄与していることが明らかになった。他方で、ケア関係の維持やあるべき家族像を前提した議論は、ケア倫理を洗練したというよりも「家族倫理」へと逆行していく流れがあることに留意しておく必要があると指摘し、全体を総括した。

ホームレス支援ボランティアの動機と継続理由~ケアの倫理への示唆~
神徳 和子(帝京大学福岡医療技術学部看護学科)

ホームレス問題は、政府が平成14年から「ホームレス自立支援施策」として特別措置法を制定し取り組んでおり、ホームレスの数は減少傾向にあると報告している。しかし、ホームレスは就業支援を重視する自立支援だけでは解決しない問題である。実際、ホームレス支援に取り組んでいる支援団体の多くはNPOであり、ボランティアによる支援が中心である。ボランティアの人々がなぜホームレス支援に関与しているのか、その動機付けと継続理由をインタビュー調査した結果を報告し、支援の実態とホームレス支援の今後の方向性について得た示唆を述べた。ボランティアの動機付けは、「共感」「道徳的関心(正義)」「専心」というカテゴリーに分類された。継続理由は、「関係性の構築、発展、継続」「ケアの相互性」「繋がり、絆の構築、コミュニティへの希望」というカテゴリーに分類された。ホームレスの多くは、社会から孤立した状況にある。そのような状況下にあるホームレスとボランティアは「専心」「ケアの相互性」いったケア的要素によってつながっていたことが明らかとなった。社会的孤立を強いられたホームレスにとって、支援ボランティアは社会的な居場所を作ってくれる重要他者となりうる。ホームレス支援は、就業支援だけでなく、社会的孤立を解決できるようケアの倫理を考慮した施策の検討が必要であることを報告した。