2021年11月28日(日) 14:00~15:30
ミーティングルームC(ZOOMライブ配信)
オーガナイザー
松原 洋子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
報告者
後藤 基行(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
渡部 沙織(東京大学医科学研究所)
オーガナイザー報告
過去に行われた医学研究や医療についてELSIの観点から評価する際、医療機関・研究機関・行政機関に保管されている資料の検討は不可欠である。しかし、日本ではこれらの資料に適切にアクセスする仕組みが確立されていない。本ワークショップでは患者の個人情報を含む資料への適切なアクセスに関する制度設計が必要であるという観点から、特に患者・市民が参画するアーカイブの構築という取り組みに注目した。
オーガナイザー(松原洋子、立命館大学)の趣旨説明の後、後藤基行(立命館大学)が「医療・ヘルスケア政策史研究と医療アーカイブズをめぐる諸課題」、渡部沙織(東京大学)が「医療・ヘルスケアアーカイブズの構想における患者・市民参画と患者アドバイザリーボード」と題してそれぞれ報告した。第一報告者の後藤は、医療・ヘルスケアにかかわる歴史的ELSI研究の重要性を述べたうえで、イギリスをはじめヨーロッパの医療アーカイブスでは医療関連文書が公開され、研究者にも活用されているのに対し、日本には同様の施設が存在しないことを指摘した。そして、個人情報保護を前提とした資料の公共化が必要であり、責任ある研究・イノベーション(RRI)の理念を共有して患者・家族、医療機関、アーキビスト・文書館、人文社会系研究者など、医療アーカイブスをめぐる多様なステークホルダーが民主的議論を行うことの重要性とともに、患者団体アドバイザリーボード(PAB)の設置の意義を提示した。第二報告者の渡部は、医療アーカイブズに含まれる患者の医療記録に関する倫理的課題に関連して、病歴が含まれる診療録の取り扱いをめぐる規制の現状、歴史的資料に含まれる病歴等の個人情報の出版が問題となった1998年のアイヌ人格権訴訟、患者・市民参加(PPI)の理念およびPABによる研究への患者参画等を取り上げた。続いて九州大学文書館診療録アーカイブスの診療録や患者記録の研究利用に関する患者・当事者および家族の団体を対象とした質的調査の概要を紹介した。最後に今後の計画として、質的調査の結果からELSI課題を抽出し、医療アーカイブスのガイドライン策定において時限的にPABを設置する構想について説明した。
ワークショップ参加者からは、医療アーカイブスでの記録資料の管理方法、過去の人々に関するデータ利用・公開のありかたを現代の視点や価値観から判断する上での課題、多様な関係者の参画が医療機関の情報開示を実現する可能性、ハンセン病療養所での資料保管の主体のありかた等に関する質問が寄せられ、充実した質疑応答がおこなわれた。
松原 洋子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)