オンデマンド配信

  • B01. 倫理審査専門職CReP の取り組み
      江花 有亮(東京医科歯科大学)
      横野 恵(早稲田大学)
      神里 彩子(東京大学医科学研究所生命倫理研究分野)
  • B02. 倫理委員会は規制対象外の研究にどのように対応しているか
      堂囿 俊彦(静岡大学学術院 人文社会科学領域)
      渡邉 達也(北里大学医学部附属臨床研究センター企画開発部門)
      中田 亜希子(東邦大学医学部医学教育センター)
      氏原 淳(北里大学北里研究所病院臨床研究適正運用管理室)
      有田 悦子(北里大学薬学部薬学教育研究センター医療心理学部門)
  • B03.基礎医学研究におけるPPIの課題と実践
      佐藤 桃子 1,2
      楠瀬 まゆみ 1,3
      大木 美代子 3
      古野 正朗 3
    (1 東京大学医科学研究所公共政策研究分野 2 理化学研究所生命医科学研究センター免疫転写制御研究チーム 3 理化学研究所生命医科学研究センターセンター長室)
  • B04. 質の高い多機関共同研究を実施するための課題と方策~一括審査原則化の含意:研究現場の視点から~
      鈴木 美香(京都大学iPS 細胞研究所 上廣倫理研究部門、医療応用推進室)
      南 真祐 (京都大学iPS 細胞研究所 医療応用推進室)
  • B05. 自己所有権から見た臨床研究におけるインフォームド・コンセントの倫理的意義
      種田 佳紀(埼玉医科大学)
  • B06. 薬学生を対象とする研究の倫理的配慮に関する実態調査
      大原 里佳(東京薬科大学)
      櫻井 浩子(東京薬科大学)
  • B07. 高齢者対象の臨床研究における同意能力評価に関する文献調査
      脇之薗 真理(藤田医科大学 研究支援推進本部/国立長寿医療研究センター)
      村井 はるか(藤田医科大学 医療科学部 医療経営情報学科 )
  • B08. オープンデータに関する一般市民の意識調査
      有澤 和代(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野)
      神里 彩子(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野/研究倫理支援室)
  • B09. バイオバンク管理者の機能に関する調査
      奥井 ひかり(京都大学大学院医学研究科)
  • B10. ヒト胚ゲノム編集の研究ガバナンスにおける政府と科学コミュニティの関り
      相京 辰樹(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学)
      古結 敦士(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学)
      加藤 和人(大阪大学大学院医学系研究科医の倫理と公共政策学)

演者報告

倫理委員会は規制対象外の研究にどのように対応しているか
堂囿 俊彦(静岡大学学術院 人文社会科学領域)・渡邉 達也(北里大学医学部附属臨床研究センター企画開発部門)・中田 亜希子(東邦大学医学部医学教育センター)・氏原 淳(北里大学北里研究所病院臨床研究適正運用管理室)・有田 悦子(北里大学薬学部薬学教育研究センター医療心理学部門)

近年日本では、機関内の倫理委員会に対し、行政指針や法律では規制の対象となっていない研究の審査が申請されるようになっている。こうした申請を適切に扱うことは、倫理委員会の健全な運営という点できわめて重要である。そこでわれわれは、規制対象外申請の適切な取り扱いに向けた基礎的な資料として、その内容や理由、さらには倫理委員会の対応を明らかにするためにアンケート調査を実施した。調査の結果、回答した機関の約6割が規制対象外の申請を審査していた。審査の内容は、非医学系研究と症例報告に大別され、主な申請理由は、論文投稿・学会発表時に条件になっていることであった。しかし学会の規則は、倫理委員会の承認を必要とする研究の基準を示しておらず、そのため本来なら審査を必要としないものも倫理委員会に申請されている可能性が示唆された。こうしたなかで倫理委員会がとりうる対応は、基本的にすべての申請を受け付けた上で、可能な限り簡略な方式で審査を行うことである。実際調査では、規制対象外の申請に関して、約8割の施設が簡略な審査方法(メール審査、迅速審査)を採用していた。しかし、規制対象外の申請にこのように対応することは、希少なリソースの使い方の点でも、通常審査で対応すべきものが十分に検討されないという点でも、問題がある。この状況を改善するには、学会が、承認を必要とする研究の基準をより具体的に示すとともに、実際の審査を行う倫理委員会が、審査の必要性や適切な審査方法を主体的に判断していくことが求められる。

基礎医学研究におけるPPIの課題と実践
佐藤 桃子 1,2・楠瀬 まゆみ 1,3・大木 美代子 3・古野 正朗 3
(1 東京大学医科学研究所公共政策研究分野 2 理化学研究所生命医科学研究センター免疫転写制御研究チーム 3 理化学研究所生命医科学研究センターセンター長室)

PPI(Patient Public Involvement, 患者・市民参画)は近年日本でも重視されているが、基礎研究での実施報告はまだ多くない。病院やバイオバンクからサンプルを得て解析を行う場合、試料・データ提供者と直接接点を持つことがないことや、患者にとって身近に感じられる研究が限られることなどが理由として考えられる。一方、人を対象として試料・データを研究利用する以上、理解や信頼を得るためにもPPIは必要な活動だと位置づけられる。本研究では、日本の基礎研究所の例として理化学研究所を取り上げ、研究活動にPPIを組み込む際に、海外の先行研究での議論を応用できるかどうかを知るため、基礎研究におけるPPIについてレビューした論文(Fox, 2020)で抽出された論点が、どの程度当てはまると考えられるかを検討した。

Fox (2020)は海外の基礎研究PPIを報告した32本の論文をレビューし、「PPI活動によって得られるベネフィット」「PPIを実施するうえでの課題」「PPI実施に対する提言」「PPIの障壁となる要素」「PPIを可能とする要素」という5つのテーマで25項目を抽出している。これらの多くは、理化学研究所でPPIを実施する想定にも同様に当てはまる、または条件付きで当てはまると考えられた。さらに、25項目の中ではテーマをまたいで①継続的な参画の設計、②参画する患者・市民の多様性、③コーディネーター的役割の重要性、という3つの論点が繰り返し登場しており、これらも理化学研究所におけるPPIを検討する際に特に重視すべきであることが確認された。

理化学研究所では、本部・事業所・センターそれぞれに広報企画を担う人材がおり、多様なレイヤーでの活動展開が考えられる。PPIという言葉自体の知名度が高くない中で、広い範囲にリーチできる広報活動を活用し、将来的なPPI参画者の多様性に繋げることが期待される。

本研究では海外の論点も理研に応用可能であると分かったため、引き続き国内外の事例を収集しつつ、実践活動の中で論点を検証していきたい。

質の高い多機関共同研究を実施するための課題と方策~一括審査原則化の含意:研究現場の視点から~
鈴木 美香(京都大学iPS 細胞研究所 上廣倫理研究部門、医療応用推進室)・南 真祐 (京都大学iPS 細胞研究所 医療応用推進室)

鈴木美香氏(京都大学iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門、医療応用推進室)及び南真祐氏(京都大学iPS細胞研究所 医療応用推進室)からは、「質の高い多機関共同研究を実施するための課題と方策~一括審査原則化の含意:研究現場の視点から~」と題して、2021年3月に制定された「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)」の中でも特に、多機関共同研究における一括審査を実施する上で想定される課題として、①一括審査のあり方、②研究代表者のあり方、③従たる研究機関の長のあり方について検討した結果を報告し、今後に向けた提案を行った。

具体的には、多施設共同研究には少なくとも2つのタイプ(共通タイプ、分担タイプ)があることを指摘した上で、①一括審査のあり方として、「分担タイプ」の共同研究においては研究実施内容が多様化、複雑化する可能性があることから、指針において一括審査は原則化されたものの、ガイダンスでは「各研究機関の状況等を踏まえ、個別審査を妨げるものではない」との記載がある点を踏まえ、個々の状況において適切な審査方法を選択することの重要性を言及した。また、②研究代表者のあり方として、特に審査依頼先の選択に関する検討を踏まえ、研究代表者には付議する委員会を責任をもって選ぶことが求められていることを確認し、最後に、③従たる研究機関の長のあり方について、自機関での研究実施可否の判断にあたり、他機関が設置する委員会での承認内容についてどこまで確認するかが課題となる可能性を指摘した。これらの検討結果を踏まえ、今後に向けた提案として、それぞれの委員会が得意とする研究領域を活かして審査をするしくみの検討、研究代表者(研究責任者)をサポートする研究コーディネーターの設置、そして、組織全体における研究推進部門や、安全管理部門などの設置や拡充等を紹介した。

薬学生を対象とする研究の倫理的配慮に関する実態調査
大原 里佳・櫻井 浩子(東京薬科大学)

医学系における研究倫理及び倫理審査は、被験者保護等の観点からその重要性は増しており、近年では教育分野においても授業評価等学生を対象とする調査・研究にも倫理的配慮が求められている。しかしながら現在、学生を対象とした研究に特化した倫理指針は殆どみられず、薬学領域ではその類の指針が未だに策定されていない中、学生を対象とする調査・研究が行われている。そこで薬学部における学生を対象とした調査・研究の実態と教員の倫理的配慮の実際、ガイドラインの必要性を明らかにする目的で全国の薬学部(77校)へ実態調査を実施した。その結果、回答数(61校)の81.7%の大学で学生を対象とした調査・研究が実施されており、中には血液採取や医薬品の服用など侵襲を伴う研究も行われていた。薬学教員は学生の参加に対する自由意志の尊重を重視しつつ、実際には研究方法や対応に悩みガイドラインの必要性を感じていることが明らかとなった。さらに医学領域、看護領域における学生を対象とした研究に関する文献調査を行い、本研究の補完を行った。薬学部でも学部の特性に応じたより倫理的に配慮した調査研究が行われるべきである。

高齢者対象の臨床研究における同意能力評価に関する文献調査
脇之薗 真理(藤田医科大学 研究支援推進本部/国立長寿医療研究センター)・村井 はるか(藤田医科大学 医療科学部 医療経営情報学科 )

今回我々は、高齢者の同意能力評価に関し、日本における評価ツールの使用状況や今後の課題を明らかにすることを目的として、文献調査を行った。最終的に抽出された18件の文献について、年代、対象者、同意能力判定ツール等の項目に分けて詳細に分析した。

本調査により、日本における高齢者の同意能力評価基準・ツールに関する研究では、MacCAT-T、SICIATRI等 の同意能力評価ツールのほか、MMSE、HDS-R等の認知機能評価検査が同意能力評価の判断に用いられてきたことが分かった。また病院独自の意思決定能力評価シートを作成・使用した例や、倫理審査委員会に判断を求めた例などもあった。

様々な研究の場面において確実に同意能力を判断するためには、定型的な判断基準・ツールによることが望ましい。しかし本調査により、日本においては未だ定型的な判断基準・ツールが確立・浸透しているとはいいがたいことが分かった。臨床・研究の場における同意能力評価の実施状況の把握や、医療従事者や研究者における同意能力評価基準・ツールのニーズ調査等が今後さらに必要であると考えられる。

今回はWEB開催ということで音声データを含めたパワーポイント上での発表となった。 今後機会があれば、ぜひ高齢者等の同意能力評価に関して会員各位と意見交換をしたい。
(本研究は科研費20K10358の助成を受けたものである。)

オープンデータに関する一般市民の意識調査
有澤 和代(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野)・神里 彩子(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野/研究倫理支援室)

ヒト由来の試料を解析して得られたデータは、試料採取に侵襲を伴うことや個人情報を含むことがあるため、提供者の権利等への配慮が欠かせない。機械判読に適し、営利・非営利目的を問わず無償で二次利用できる「オープンデータ」の利活用が推進されるなか、一般市民の試料及びデータ提供における考慮事項や懸念等を調査し、オープンデータへの障害要因、留意点を明らかにすることは重要である。そこで、2021年3月25日から同月29日にインターネット調査会社を通して、一般市民を対象に同調査を行い、2,213人から回答を得た(回収率18.2%)。

その結果、営利目的につながるデータ利用には消極的であること、データを「誰がどのような目的で使ってもよい」と考える者は「誰のデータかわからなくなっているなら」との条件を付した場合と合わせても30%に満たず、オープンデータの利活用と一般市民の意識には乖離があること等が明らかになった。試料やデータに対する自己所有意識は低いものの、自身への利益配分の欲求は高いことも示され、無償提供という試料提供者の善意へのフリーライドに対する嫌悪感がオープンデータへの障害要因となりうること等を報告した。

バイオバンク管理者の機能に関する調査
奥井 ひかり(京都大学大学院医学研究科)

奥井ひかり(京都大学)より、「バイオバンク管理者の機能に関する調査」というタイトルで発表を行った。本発表は、バイオバンク(バンク)におけるヒト試料および付随情報(試料等)の払い出し業務(共同研究や分譲でバンクの外に出すこと)に着目し、当該プロセスにおけるバンク管理者の機能について行った調査の報告である。

まず背景として、試料等について、由来者からの提供・収集から研究者への提供・利用までのプロセス、および社会の中でのバンクの役割について倫理的なあり方が検討され、採取機関、バンク、利用機関において体制が整備されてきたこと、近年はバイオバンクに保存された試料等の、より活発な利活用が目指されている現状について述べた。

次に、バンクにおけるcustodianについて、米国国立がん研究センターの実務要項において、バンクにおけるcustodianの定義、役割、custodianになるべき人について記載されていること、また、先行研究において、提供者、管理者、利用者など、多様なステークホルダーが存在する中、その調整機能としてのcustodianの役割について紹介し、”Custodial model”を提唱している研究もあることを報告した。

その後、実地調査の結果について述べた。国内の2つのバンクで調査を終えており、
・成立経緯の違いによる、バンクごとの運営体制の違い
・試料等の扱いをめぐる診療科等との関係
・具体的な払い出しの手順
などについて、バンクごとの特徴を中心に報告した。

考察では、調査済みのバンクにおいて、バンク長または実務責任者が(=バンクにおける「管理者」(custodian))の判断が、迅速、円滑な払い出しにつながっていることを述べた。

最後に、今後の調査(国内、海外)の課題として、共同研究と分譲とではバンクの当該研究における役割が実質的にどう違うのかという点をさらに詳しく調べたい、などのことを述べた。

発表後、参加者からは、
・試料等の利用手続きについて、バンクごとに手続きが異なることを知らず、新鮮であった
・試料等の利用に関してはICに関する研究が多いので、払い出しに関しての研究は貴重である
という、本研究の新規性に注目した内容のコメントが得られ、また、
・払い出しの判断について、バンクごとに委ねられるだけではなく、いずれは国で方針が作られるべきではないか
という趣旨のコメントもあり、今後の調査を継続する上での貴重な意見が得られた。今後の調査研究に生かしたいと考える。