2021年11月28日(日) 9:00~10:30
ミーティングルームB(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
笹月 桃子(西南女学院大学 保健福祉学部・九州大学病院 小児科)

報告者
成本 迅(京都府立医科大学大学院医学研究科 精神機能病態学)
櫻井 浩子(東京薬科大学 薬学部)
横野 恵(早稲田大学 社会科学総合学術院)
笹月 桃子(西南女学院大学 保健福祉学部・九州大学病院 小児科)

オーガナイザー報告

最近、小児領域においてもACPを謳う声を耳にするようになった。しかし本来的には、自己決定概念・自律尊重が基盤にあるACPは、そのままの形で小児の医療現場に導入できない。では小児のACPが語られるとき、その主体は誰なのか、その目的は何なのであろうか。この問題意識から、演者らは、我が国の小児ACPをめぐる言説分析を試みた。

本ワークショップでは、まず、先の分析の結果の一部を報告した。我が国における小児ACPは、報告者により、①その対象や目的は曖昧である、②家族は対象なのか、主体者なのか、定まっていない、③治療制限につながる傾向がある、ことなどが明らかになった。

横野は、ACP概念誕生と発展の経緯を整理した。成人のために作成された定義をそのまま小児に適用することの不適切性を指摘した。小児ACPと称することで、例えば生命維持治療の差し控え等の対象が拡大されている可能性を危惧し、意思決定困難な小児の医療の決定は、まずは代理意思決定としての倫理的な適正さが第一義的に要請されることを強調した。
成本は、自己決定能力に限界がある認知症患者においても、自分で自分の意思決定を行う権利が保障される重要性を説き、本人の意思決定能力の状態と場面に応じて、支援の量や種類を緩やかに増減するアプローチを紹介した。常に本人を主眼に置くためにこそACP概念に意義があることが示された。
笹月は、重篤な病態を抱える子どもが、先を見越した医療や社会の価値的な議論に晒されることで、その子どもの「いま」・個別性・他者性が容易に奪われかねないこと、子どもの代理意思決定をめぐる問題には社会構造に包含される課題が通底することに言及した。
櫻井は、文献レビューの結果から、特に周産期領域においてACPが「緩和ケア」「看取り」「グリーフケア」「育児」などと関連づけ語られていることを報告した。そして医師目線の価値観に基づいた「良い死」という可視化できる出来事によりACPが正当化されているのではないかと指摘した。
指定発言者の田中恭子医師は、思春期患者に対し、本人主体の協働意思決定の導入にACP概念が果たす意義があることを、実践を交えて紹介した。

その後フロアとの議論においては、小児緩和ケアや出生前診断とACPの関係性について、多職種協働の在り方、小児ACPの対象として重度障害児の報告が少なくないこと、周産期のACPにおける産科医の役割などについて、質問あるいは問題提起された。
昨今、我が国において語られている小児ACPは、重篤な病態や重度の障害を抱える子どもの意思決定の困難さ・複雑さに何をもたらし得るのか、依然曖昧である。小児領域への導入可能性を検討するにあたり、意思決定支援の一つの方法論的概念としての可能性は否定しないながらも、その概念イメージの内実を追求あるいは再構築する議論の重要性が共有された。

笹月 桃子(西南女学院大学 保健福祉学部・九州大学病院 小児科)