2021年11月28日(日) 14:00~15:30
ミーティングルームB(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
盛永 審一郎(元富山大学)

  • オランダ安楽死の法と倫理
      盛永 審一郎(元富山大学)
  • ヨーロッパ人権条約 8 条の射程―「私生活の尊重」に基づく死をめぐる決定
      小林 真紀(愛知大学)
  • 安楽死と「私生活を尊重される権利」 ― ベルギーにおける法的状況
      本田 まり(芝浦工業大学)
  • ドイツ連邦裁判所判決の投げかけるもの
      品川 哲彦(関西大学)

オーガナイザー報告

オランダの安楽死法は、脆弱な生を保護する欧州人権条約と両立可能である。なぜなら死に方を選ぶ権利は「私生活を尊重される権利」の一つだから、を巡り批判検討する。

小林真紀:欧州人権条約2条、3条、8条からは「死ぬ権利」は導き出されない。他方で、「死に関わる決定をする権利」は、8条の「私生活を尊重される権利」によって根拠づけられる。締約国は、この権利と、弱者の生命の保護との間でバランスを図る必要がある。かりに安楽死法を制定する場合、具体的な中身については締約国の裁量に任せられ、欧州人権裁判所はその「評価の余地」の逸脱の有無を統制するに留まる。したがって、「私生活の尊重」の概念は、安楽死に関わる一定の権利の根拠となる一方で、安楽死を巡って発生する個別具体的な問題を直ちに解決しうるわけではないといえる。

盛永審一郎:欧州で死刑が廃止されたのは、死刑は人間から未来へ企投する自己決定権を奪うことにより、人間の尊厳を侵害しているからである。同様に、治療法のない終末期の患者も自己決定権を奪われている。オランダ安楽死法の心髄は、患者の自発的で熟慮された要請を尊重する行為と患者の絶望的で耐えがたい苦悩を確信して思いやりから患者の尊厳を守る行為とからなる、これは患者の生の質を保護することで、患者の生の長さを保護する義務の不可抗力となり、違法性が阻却される。私生活を尊重される権利は、身体と精神の統合体である人格に基づく。

本田まり:ベルギーにおいては、憲法で「私生活および家族生活を尊重される権利」(22条)等が保障されている。安楽死法(2002年)では、「私生活」という語は規定されていない。立法時の国務院による答申(2001年)および法改正後の憲法裁判所による判決(2015年)で、「私生活を尊重される権利」(欧州人権条約8条)が言及されている。近時、精神疾患を有する者に対して実施された安楽死について、家族が告発したり(Tine NYS事件)、欧州人権裁判所に提訴したりする(MORTIER対ベルギー事件)状況が注目に値する。

品川哲彦:2020年2月、ドイツ憲法裁判所は業務による自殺介助を禁じる刑法217条を違憲と判決した。本人が望まない生活を国家が強制する点でドイツ基本法第1条にいう人間の尊厳を侵害するとの理由だった。判決は自殺する権利、自殺介助を求める権利を普遍的人格権と認めたので、病苦の重さや死期の近さを理由にそれらの権利を制限することはできない。はたして、死を望む実存的理由の正当性を、誰がどのように判定できるのか。立法する議会には、判決を踏まえつつも、自殺を促す圧力を阻む措置を策定するという難題が課されている。

質疑応答:「自死介助の要請を実効化する手段を容認化する説明は、どのように考えるべきか」、「非人道的な取り扱いということで考えると、未成年のいじめによる自殺も同じ論理が成り立つことになるので、死を選ぶというのは、どう考えても正当化できないのでは」と言う質問がフロアーからあり、それに対して議論がなされた。

詳細は、小出泰士編「生命倫理・生命法研究資料集Ⅶ」(芝浦工大、2022年3月刊行予定)に掲載。                

盛永 審一郎(元富山大学)