オンデマンド配信
- E01. アドバンス・ケア・プランニングの時相
金田 浩由紀(関西医科大学総合医療センター)
大上 千賀(関西医科大学総合医療センター)
武 ユカリ(関西医科大学看護学部) - E02. なぜ,オーストリアは,自殺幇助罪を違憲と判断したのか―当地の医師介助自殺に寛容な判例動向の分析
神馬 幸一(獨協大学法学部) - E03. 「安楽死」は安楽なのか?
安藤 泰至(鳥取大学医学部)
演者報告
アドバンス・ケア・プランニングの時相
金田 浩由紀・大上 千賀(関西医科大学総合医療センター)・武 ユカリ(関西医科大学看護学部)
Advance Care Planning(ACP)について多様な解釈が存在する。この発表ではACPの時相の問題点を共有し、事前とは何の事前なのかについて改めて確認した。
まず、Advance(事前の)は時間の概念を表すものであり、程度を表すAdvanced(上級の)という意味ではない。事前の取り組みのことでなければACPと呼ぶ必然性がなく、米国と欧州の論文でもACPは「将来の」治療やケアのためのものであることがコンセンサスとして示されている(Sudore. 2017, Rietjens. 2017)。
本発表では、以下の3点を提案した。
1. ACPの定義について、Advanceの時相の取り組みであることを明確にするため、「ACPは、将来に行われる医療・ケアの意思決定を支援するため、事前の話し合いにより、患者の意向を共有する取り組み」とする
2. 価値に比重を置いて治療方針を決定していく取り組みを、ACPと呼んでしまうのではなく、臨床倫理と呼ぶ
3. ACPとAD、さらに有事の意思決定との関係性は集合図で表そうとすると不適切であり、代わりに患者の意向を意思決定まで繋いでいくという流れ図で表す
なぜ,オーストリアは,自殺幇助罪を違憲と判断したのか―当地の医師介助自殺に寛容な判例動向の分析
神馬 幸一(獨協大学法学部)
本発表では,2020年12月11日付けでオーストリア憲法裁判所が示した自殺関連刑法規定に対する違憲判決(VfGH-Erkenntnis, G 139/2019-71 vom 11. 12. 2020)の内容が紹介された。オーストリアでは,従前,あらゆる態様の自殺関与が(我が国と同様に )刑法上,禁止されていた。しかし,当地では,終末期患者に対する(渡航)自殺支援を巡る刑事事件が幾つか発生しており,このような例外を一切認めない当地の規制態様に関しては批判が高まっていた。そのような状況に対して,この判例は,一定の方向性を示すものである。すなわち,これにより,いわゆる「医師介助自殺(ärztlich assistierter Suizid)」に関して,オーストリアは,寛容な立場(その許容化)を採用したことになる。
オーストリアで,このような大きな変化が生じた理由に関しては,様々な要因が考えうる。本発表では,その中でも,考察結果として「関連する周辺立法状況の変化」が特に強調された。例えば,いわゆる「間接的臨死介助」に関して,当地では,2019年に,医師法第49条a が導入され,かかる規定を介して,臨死者の尊厳に鑑み,重篤な苦痛を緩和する目的であれば,終末期にある患者の死を早めることも許容されるという原則が法的に公認された。これは,ある意味,「多元的社会において,絶対的な生命保護義務は,国家に課されていない」という言説を具体化する法制度である。本発表では,その点が当該違憲判決において色濃く反映されていることが例証された。