2021年11月28日(日) 15:40~17:10
ミーティングルームC(ZOOMライブ配信)

オーガナイザー
加藤 和人(大阪大学大学院医学系研究科)
古結 敦士(大阪大学大学院医学系研究科)

報告者
古結 敦士(大阪大学大学院医学系研究科)
磯野 萌子(大阪大学大学院医学系研究科)
相京 辰樹(大阪大学大学院医学系研究科)
山本 べバリー・アン(大阪大学大学院人間科学研究科)

オーガナイザー報告

本ワークショップでは、近年欧米を中心として様々な国で注目を集めている医学研究や医療における患者や市民の参画(患者市民参画)をテーマとして取り上げた。日本においても、2018年から日本医療研究開発機構(AMED)が患者市民参画の推進の体制整備を始めており、また、実践も徐々に広がりつつある。そこで、本ワークショップでは、患者市民参画を進めていく際の具体的な検討事項を考えるために、2つの視座(着眼点)を紹介し、その概念化や理論化がどのように可能かを検討した。なお、本ワークショップの登壇者は患者市民参画に関する実践的な研究プロジェクトを主催している立場であり、当日は実践からの学びや示唆に基づいて話題提供を行った。

当日は、以下のように進行した。まず古結敦士より、患者市民参画の概要とワークショップ開催の背景について紹介した。特に欧米を中心に患者市民参画の実践・推進が行われているが、国際的にも患者市民参画に取り組むための知見は未だ十分には確立していないこと、国内では、実践の蓄積や共有でさえも不十分といえる状況にあることを確認した。また、登壇者たちが関与している3つの研究プロジェクト(希少疾患を対象とする医学研究とその政策、人工知能(AI)の医療への実装)について概要を紹介した。

次に相京辰樹より、①患者市民参画のベネフィットという着眼点に関して報告があった。患者市民参画によってもたらされるベネフィットには、患者にとってのベネフィット、研究者にとってのベネフィット、社会にとってのベネフィットなどの様々な側面がありうることを、実際の研究プロジェクトの経験による具体例とともに紹介した。そして、ベネフィットを3つの類型-Fundamental benefits(基礎的なベネフィット:研究そのものの改善など)、Tangible benefits(有形のベネフィット:症状やQOLの把握、他の患者や専門家との交流の機会など)、Intangible benefits(無形のベネフィット:自己効力感や研究への親しみが増すことなど)-に整理することを提案した。この着眼点は、患者市民参画の意義を具体化するものであり、実践上の検討に役立つ可能性があることを強調した。

その後、磯野萌子より、②患者市民の位置付けと役割という着眼点に関して報告が行われた。実践を行う上で直面した、参画する患者市民に対する研修や謝金の支払いなどにまつわる課題を紹介した上で、これらを考える際に「患者市民の位置づけと役割」という視座が重要になることを指摘した。参画する患者市民に期待される役割として、「病気の罹患やケアの経験に基づくエキスパート」としての経験知を提供する役割や、「研究の非専門家」としてより社会に開かれた研究のために説明責任を果たす上での役割等があることを示した。実践の場面で、患者市民に対してどのような役割を期待するかに基づいて、研修実施の有無や、行う場合にはどのような研修内容にするべきかといった具体的な問題を検討することを提案した。

最後に、山本べバリーアンが指定発言を行った。まず、各プロジェクトの時系列や相互に与えた影響について確認した上で、相京と磯野の発表内容を振り返った。そして、客観主義的認識論と主観主義的認識論のどちらの認識論を採用するかによって、医学研究や医療をはじめ社会全体における患者市民参画の位置付けや、参画する際の課題への対処が異なり、倫理的問題が生じることを指摘した。例として、患者が「脆弱な存在」(現在は医療者や技術者だけが専門家と見做されており、これは客観主義的認識論に基づくと言える)ではなく、「専門性のある存在」(民主的位置付けであり、主観主義的認識論に基づくもの)であることを第一の特徴として考えた場合には、報酬などに関する問題への対処も異なってくることを挙げた。

ディスカッションでは、参加者とともにこれらの着眼点に基づく整理が今後の他の実践にどのような示唆を与えるかについて、意見交換が行われた。例えば、患者市民参画によるベネフィットの整理を通して、研究成果の臨床応用に留まらない様々なベネフィットがありうることが示された。このことを踏まえて、この整理が基礎研究の患者市民参画に有用である可能性が指摘された。

さらに、これから特に日本において、より倫理的な、実りある患者市民参画を進めていく上で取り組むべき課題についても話し合われた。1つの重要な課題として、患者市民参画を実践する際のルールや指針が存在しないことが挙げられ、ガイドラインの策定をはじめとするインフラ整備の必要性が指摘された。同時に、患者市民参画の取り入れ方は多岐に渡ることや多様な患者市民の参画を促すことの重要性から、画一的ではない柔軟な運用が必要であることも強調された。

古結 敦士(大阪大学大学院医学系研究科)