2021年11月28日(日) 9:00~10:30
ミーティングルームC(ZOOMライブ配信)
座長
高島 響子(国立国際医療研究センター)
高橋 尚人(東京大学医学部附属病院)
- 自発的飲食拒否の現状と許容可能性についての検討
荻野 琴(京都大学大学院文学研究科) - ウェアラブルデバイスから収集される生体情報―アスリートからの収集・共有・利活用に際する法的倫理的社会的課題の整理とガバナンス体制の現状分析―
後藤 新人(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科) - ゲイ男性の家族形成および生殖補助医療利用に関する文献研究―海外の意識調査を中心に―
島﨑 美空(熊本大学大学院医学教育部) - 生命倫理におけるフェミニスト・アプローチとしての関係的自律とその展開
冨岡 薫(慶應義塾大学大学院文学研究科・国立がん研究センター)
座長報告
第30回年次大会に創設された本賞も4回目となった。演題募集時に一般演題応募者を対象にエントリーを募った。年次大会の査読を経て採択された一般演題のうち、本賞にエントリーした14演題の抄録について、研究開発委員会が事前審査を行い4演題を候補に選出した。大会2日目にライブ配信、またその録画がオンデマンド配信され、理事、評議員、幹事、研究開発委員が審査基準に基づき投票した。
荻野琴氏は「自発的飲食拒否の現状と許容可能性についての検討」と題し、責任能力があり経口飲食可能な個人が死期を早めることを意図して自発的に食事や水分の摂取を拒否する自発的飲食拒否(VSED)の現状と許容・反対をめぐる議論を提示したうえで国内への示唆を検討した。国内の医師対象調査の結果も紹介され、日本の終末期医療の現場でもVSEDが現実問題として生じていることが指摘された。VSEDと医療との関係性や、(治療拒否権の類推で本人は正当化可能としても)関与する医療者の自殺ほう助罪の可能性、終末期医療の法制度が異なる国との論点の相違、精神的苦痛を根拠とするVSEDの許容可能性などについて質問があった。
後藤新人氏は「ウェアラブルデバイスから収集される生体情報―アスリートからの収集・共有・利活用に際する法的倫理的社会的課題の整理とガバナンス体制の現状分析―」と題し、ウェアラブルデバイス着用によるアスリートの生体データの収集・利活用・共有に関する法的倫理的社会的課題の文献調査、及び海外のガバナンス体制の現状について報告した。スポーツ領域に特有の課題や反対に他の生命倫理領域にも共通する示唆は何か、プロとアマチュアでの違い、契約やスポンサーの影響などについて質問があった。
島﨑美空氏は「ゲイ男性の家族形成および生殖補助医療利用に関する文献研究―海外の意識調査を中心に―」と題し、男性同性愛者を対象とする生殖補助医療や家族形成(親になること)の意識調査について海外文献調査を行い、今後国内で調査を実施する場合の項目を検討した。本テーマで対象となる生殖補助医療技術の種類や、親になる「願望」と「意図」の違いは何か、国や地域による差異、対象を男性に限定した理由、養子縁組の利用との関係性などについて質問があった。
冨岡薫氏は「生命倫理におけるフェミニスト・アプローチとしての関係的自律とその展開」と題し、関係的自律を「フェミニスト・アプローチ」の立場で捉えるとその基軸に「抑圧への抵抗」があるとし、第二波フェミニズム運動、特に妊娠中絶の議論に遡って検討した結果、第二波フェミニズムにおける女性の自己決定の主張はあらゆる抑圧に抵抗する自律の問題へと移行させたという意味で現在の生命倫理で議論される関係的自律の議論の先駆けと捉えられるとした。フェミニスト的価値とはあらゆる抑圧に抵抗することか、抑圧の許容可能性などについて質問があった。
投票の結果、荻野琴氏が受賞者に選出された。 本セッションのライブ配信は初の試みであったが、多くの質問が寄せられ活発に議論されたこと、参加者と演者双方に深く感謝したい。
高島 響子(国立国際医療研究センター)