2021年11月28日(日) 15:40~17:10
ミーティングルームB(ZOOMライブ配信)
オーガナイザー
宍戸 圭介(岡山商科大学法学部)
- 中国での腎臓移植手術後の日本国内継続治療の現状
S(静岡県在住) - 海外渡航移植患者からの帰国後のフォローアップの求めを、医療機関が自院の申合せ(内規)に基づいて断ったことが争われた裁判例について
宍戸 圭介(岡山商科大学) - 診療拒否にまつわる倫理問題―アジア渡航移植患者帰国後診療拒否は倫理的に正しいか―
粟屋 剛(岡山商科大学法学部) - アメリカ合衆国におけるメディカルツーリズムと治療の連続性
加藤 穣(滋賀医科大学医学部)
オーガナイザー報告
日本から海外に渡り臓器移植を受ける者については、帰国後に日本の医療機関からフォローアップを断られる事態が存在し、近年では訴訟に至るケースも生じた(東京高判令和元年5月16日、LEX/DB 25563247)。こうした渡航移植(それ自体)や帰国後の診療拒否の問題を検討するにあたっては、実態を正しく認識する必要がある。そこで、本シンポジウムにおいては、多くの専門領域の会員からできるだけ広く情報を共有し、意見交換を行うことを計画した。
はじめに、企画趣旨について宍戸から説明を行った。
続いて、医療機関から病院内部の「申合せ」に基づいてフォロアーアップを断られたという上記ケースに関して、原告(控訴人)となったS氏に講演をいただいた。同講演では、中国での移植を決断した経緯、帰国後のフォローアップの状況や保健所・医療機関等の対応状況に加え、訴訟や日本の移植医療に対する思いについても語っていただいた。
上記講演を受けて、宍戸から、前述の東京高裁判決に関する紹介を行なった。その上で、本件裁判例は事例判断と捉えるべきであること、イスタンブール宣言に基づく「申合せ」によって「間接的に、臓器取引や移植ツーリズムを抑制しようとすることが有効かつ相当と考えられる」とした判断には疑義があることについて、コメントを及ぼした。
イスタンブール宣言については、アジア渡航移植の倫理問題を論ずる粟屋報告においても取り上げた。同報告の結論としては、「移植政策に死刑囚や法輪功学習者等の人権の問題があるとしても、…(中略)…渡航移植患者にいわば出口から圧力をかけること(ないし制裁を加えること)が倫理的に正しいとはいえない」ことが示された。
なお、中国での移植が特に問題視されている理由としては、ドナーの出どころに疑問があることが指摘されている。この点は、本学会においても2016年の第28回年次大会・公募シンポジウムⅣ「臓器移植と正義」で既に取り上げているが、最新の状況について、鶴田ゆかり氏(中国での臓器移植濫用停止ETAC国際ネットワーク)より補足コメントをいただいた。
最後の加藤報告では、アメリカ医師会(AMA)の医療倫理ガイドライン(Code of Medical Ethics)について紹介がされた。たとえば、同ガイドラインには、メディカルツーリズムを検討している患者に対して情報提供を行うこと、海外から帰国した際にフォローアップケアをその医師が行う意思があるか否かについて知らせることなどが、“医師個人の責務”とされている(しかし、これは法的な義務ではない)。
パネルディスカッションにおいては、中国のドナーに関する質問などをいただくことができたが、医療者側の(渡航移植や診療拒否にかかる)現状や想いについてもう少し伺うことができれば、より議論が深まったのではないかと思われた。引き続き、情報共有・意見交換の場を設ける必要性を感じた。
宍戸 圭介(岡山商科大学)