2021年11月27日(土) 15:30~17:00
ミーティングルームB(ZOOMライブ配信)
オーガナイザー
入澤 仁美(順天堂大学)
- 「ART(生殖補助技術)利用における多元主義から考える、社会における子どもの意義の検討」
村岡 潔(岡山商科大学) - 子どもを持ちたい LGX とその実現可能性 ―情報と自己決定―
稲垣 惠一(静岡文化芸術大学・日本赤十字豊田看護大学) - 非同性愛者の訴えに見られる異性愛主義的社会の歪みについて-若年女性の心理支援を通して
水野 礼 (名古屋市立大学・名古屋大学大学院) - 誰かの役に立ちたい・子孫を残したい「卵子ドナーの心理」~NPO 法人 OD-NET の活動を通じて~
岸本 佐智子(NPO 法人卵子提供登録支援団体)
オーガナイザー報告
最初に司会・オーガナイザーの入澤仁美(順天堂大学)が以下の趣旨説明を行った。①2020年、不妊夫婦の配偶子(精子/卵子)提供の条項を含む生殖補助医療(ART)利用の民法特例法が成立した。その結果、国内でも「配偶子提供による受胎/妊娠(DC; Donor Conception)」が可能となったが、本法の対象にはシングル(非婚者)やLGBTQ(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer and/or Questioning)などのSexual Minority は含まれていない。②そのため、彼らの「子を持つ権利」や、その援助者の「子を授ける手助けをしたい」権利、あるいは「出自を知る権利/知らないでいる権利」さらには「ドナーのプライバシー権」など、ARTの不妊夫婦以外への代替的利用に伴う諸権利の問題が山積している。③私たち、入澤らのチームは、数年内、こうしたARTの倫理的・法的・社会的課題(ELSI; Ethical, Legal and Social Issues)を探求してきたが、本シンポジウムもその一環である。➃今回は、ARTは医療現場に限るべきか、私的空間でのDCは規制されるべきか、こうした諸問題の底流にある血筋(血縁)の問題を踏まえながら、性と生殖の自己決定に関わる当事者のジレンマについて、生命倫理やジェンダー論などの他の多角的視点から日本社会が多様な家族を受容していくための課題について検討する。パネリストの演題と報告は以下のようになされた。(注)[ ]内は、村岡の補遺。
*1) 水野 礼 (名古屋市立大学・名古屋大学大学院)「非同性愛者の訴えに見られる異性愛主義的社会の歪みについて-若年女性の心理支援を通して」:
「異性愛中心主義的な社会」の歪みは同性愛者への差別やそれを被る当事者の苦悩という形のみならず、「非同性愛者」すなわち異性愛者やAセクシュアル[Asexual] などの人々にも表れ得る。本シンポジウムでは、Aセクシュアルや精神的な問題を背景にした性機能障害を持つ女性のエピソードを通して、彼女らの苦悩の背景にある、愛・性・家族の再生産にまつわる規範と今日的なSRHR [Sexual and Reproductive Health and Rights]について問題提起を行った。
*2) 稲垣 惠一(静岡文化芸術大学・日本赤十字豊田看護大学)「子どもを持ちたい LGX とその実現可能性 ―情報と自己決定―」:
LGBTX[Q]の人々のインタビュー調査によれば、LGXの多くは「子どもは要らない」と言う。また、LGXが子どもを持つための団体の活動は、LGXが子どもを持つという決定しにくいという状況を明らかにしている。これに対して、ひとりで生きるという自己決定がしにくい状況もLGXは異性愛者とともに共有している。すべての人の自己決定が尊重されるために、多様な生き方を支える新たな社会形成が必要であるということを本発表は明らかにした。
*3) 岸本佐智子(NPO法人卵子提供登録支援団体[OD-NET])「誰かの役に立ちたい・子孫を残したい『卵子ドナーの心理』~NPO 法人 OD-NET の活動を通じて~」:
OD-NETでの9年間にわたる活動を通じ、ボランティアで協力していただける卵子提供者(以下:卵子ドナー)の希望理由を紹介した。「誰かの役に立ちたい」「悩める人の力になりたい」と自己の幸せや利益よりも他者の喜びや利益を優先する崇高な想いの卵子ドナーが少なくないことを明らかにした。卵子提供を希望する夫婦は、その想いに感謝しつつ、血のつながりを超えた情愛を深く培っていくことが最も大切である。
*4) 村岡 潔(岡山商科大学)「ART(生殖補助技術)利用における多元主義から考える、社会における子どもの意義の検討」
目下、ARTの利害関心は❶「育ての親」よりも❷「産みの親」にある。ART利用の多元主義とは、従来❶かつ❷であった親存在が乖離し子の出生に3人以上が「親分担」として関与する形態をさす。また親同士は、異性愛でも同性愛でも血筋(遺伝)関係を忌避しつつ、親子関係にのみ血筋を求める血筋主義にこそ矛盾がある。「実子」も「養子」も生物学的には等質で、文化・社会の使命は人をいかに育てるかにある。人類学的にも生命倫理的にも、深く解明すべきは「子」すなわち「親を生み出す制度(システム)」の方なのである。
*5) 総合討論では、現行の婚姻/戸籍システムには改善すべき問題点の多いという賛同的なご指摘もあり、そのシステムを超えたSexual Minority等のARTの代替的利用の諸問題に対する参加視聴者の関心が一定程度換気された感が伺えた。(完)
入澤仁美(順天堂大学) [文責・村岡 潔]
入澤仁美先生は2022年1月にご逝去なさいました。心からご冥福をお祈り申し上げます。(情報委員会)