2021年11月27日(土) 10:40~12:10
ミーティングルームA(ZOOMライブ配信)
オーガナイザー
瀧本 禎之(東京大学大学院)
長尾 式子(北里大学)
- 東海大学医学部付属病院における臨床倫理コンサルテーションの境界
竹下 啓(東海大学医学部) - 東京慈恵会医科大学附属柏病院における臨床倫理コンサルテーションと、その境界
三浦 靖彦(東京慈恵会医科大学) - 関西医大総合医療センターでの臨床倫理コンサルテーションの境界
金田 浩由紀(関西医科大学) - 北里大学病院における臨床倫理コンサルテーションの境界
長尾 式子(北里大学)
オーガナイザー報告
日本の医療機関、特に特定機能病院や地域中核病院など、高度先端医療や、急性期医療を担う病院では、医療を受ける患者や家族の権利を尊重しつつ、医療ケア従事者の責務を果たしながら、今日の医療ケアの決定を行っている。しかし、このような決定に際して、倫理的に正当化できるのか否か、現場の医療従事者が悩む事例も多い。これに対し、医療ケア従事者を支援する仕組みとして、病院・臨床倫理委員会の設置および臨床倫理コンサルテーションサービスが提供されているが、その運営には課題が多いことが知られている。
研究の倫理審査を担う委員会は国の倫理指針に基づき設置されているため、組織化の統制を諮ることができる。しかし、臨床倫理に特化した倫理委員会についてはその様な指針はなく、この臨床倫理の問題を検討する病院・臨床倫理委員会及びコンサルテーションの仕組みが整う過程には、病院の組織文化および歴史的背景、イニシアチブやリーダーシップをとる者の存在が影響しうる。また、倫理コンサルテーションを整備するに至った院内の事情によっては、受ける相談事案も異なると言える。そこで、本シンポジウムでは、早期から臨床倫理コンサルテーションを行っている4名が、各病院における①臨床倫理コンサルテーションの射程範囲②4つの共通事例についての対応を、提示および対比することにより、病院・臨床倫理委員会及びコンサルテーションの輪郭を描写することを試みた。
まず、竹下啓氏は、東海大学医学部付属病院の倫理コンサルテーションの立ち上げから運用までの過程において、誰からの相談を受けるのか、対象となる事案、倫理委員会や病院長など組織的に解決するべき問題について紹介した。次に三浦靖彦氏は、東京慈恵会医科大学柏病院で倫理コンサルテーションの立ち上げ、東京慈恵会医科大学グループへの臨床倫理の普及活動、地域医療ケア従事者と臨床倫理を通じた連携活動を紹介した。金田浩由紀氏は、関西医科大学総合医療センターの倫理コンサルテーションが取り扱う臨床倫理の問題を明確にし、職業倫理を取り締まる印象を抱かせない工夫をしながら、院内で臨床倫理の普及を紹介した。長尾式子は、北里大学病院の倫理コンサルテーションと医の倫理委員会との関係、倫理コンサルテーションの対象と手続きの特徴について紹介した。
各人、共通する事例である1.病院職員に暴言・暴力を働いた患者に対する診療拒否、2.患者の救命のための研究開発中の医療機器の使用、3.過去の児童虐待を行った女性が出産する児の保護、4.患者に対して不適切な言動を繰り返す医師への対応、5.人生最終段階における生命維持治療の中止の5事例が相談された場合、各病院ではどのような対応をしているのか対比しながら、改めて臨床倫理コンサルテーションの病院内の役割、機能を議論した。そして、生命維持管理装置を希望しない非がん患者への救命の判断、病院・臨床倫理委員会や倫理コンサルタントの構成員、倫理コンサルタントと医療安全の関係などの質疑を経て、臨床倫理コンサルテーションは何かを検討し、臨床倫理コンサルテーションの境界について検討することができた。
瀧本 禎之(東京大学大学院)・長尾 式子(北里大学)