• 日時:2019年12月8日(日)9:00~10:30
    会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合総合講義棟・第3小講義室(E会場)
  • 9:00~9:05
    座長挨拶

    • 高島響子(国立国際医療研究センター)
    • 武藤香織(東京大学)
  • 9:05~9:25
    医学研究倫理における脆弱性の概念
    -争点の整理-

    • 川﨑 唯史(熊本大学)
    • 大北 全俊(東北大学)
    • 佐藤靜(大阪樟蔭女子大学)
    • 松井 健志(国立がん研究センター)
  • 9:25~9:45
    患者・研究者・政策関係者の協働による医療・医学研究政策に資するエビデンスの創出

    • 古結敦士(大阪大学)
    • 濱川菜桜(大阪大学)
    • 磯野萌子(大阪大学)
    • 山﨑千里(大阪大学)
    • 小門穂 (大阪大学)
    • 加藤和人(大阪大学)
  • 9:45~10:05
    スペインにおける臓器提供
    -提供に際する家族への意思確認現場に関して-
    後藤新人(慶應義塾大学)
  • 10:05~10:25
    高齢者への「延命医療の差し控え」をめぐる家族介護者の語り
    眞浦有希(甲南女子大学/大阪大学)
  • 10:25~10:30
    座長総括・時間調整

座長報告

今年で2回目の開催となった本セッションでは、演題募集の際に立候補がありかつ査読を通過した10演題の中から、研究開発委員会の事前審査を経て選出された4演題の発表があった。一般演題(口演)と同形式で報告、質疑応答がなされ、本セッションに参加した理事・評議員が審査基準に基づいて採点した。

川﨑唯史氏は、「医学研究倫理における脆弱性の概念—争点の整理—」と題し、研究倫理において倫理的配慮をすべきとされてきた「弱者集団(vulnerable populations)」、「脆弱性(vulnerability)」の概念規定をめぐる議論を概観し、従来の、特定の集団に属するものを一律に弱者とみなす集団アプローチが否定された現在、解決策として議論される消極的アプローチ、分析的アプローチ、包括的アプローチを検討し、日本の研究倫理に対する示唆を提示した。

古結敦士氏は、「患者・研究者・制作関係者の協働による医療・医学研究政策に資するエビデンスの創出」と題し、難病の医学研究政策に患者の声を反映させる患者参画の取り組みの一例として、発表者らのグループが行った、患者・患者グループ関係者と医学研究者、政策関係者による「エビデンス創出コモンズ」について報告した。

後藤新人氏は、「スペインにおける臓器提供—提供に際する家族への意思確認現場に関して—」と題し、スペイン・カタルーニャ州におけるインタビューや資料調査に基づき、オプトアウト方式の導入により臓器移植実施数が多いと見なされる同国にあって、法制定当時はオプトアウト方式に関する議論は希薄であったこと、また実際には家族へのコミュニケーションも重視され、臓器提供候補者には早期からアプローチされる実態を報告した。

眞浦有希氏は、「高齢者への「延命医療の差し控え」をめぐる家族介護者の語り」と題し、過去に家族に対する「医療行為の差し控えや中止」を行った経験を有する人々へのインタビュー結果を報告し、家族の医療行為の差し控えや中止そのものの経験認識を問うことの困難さを提示した。

前回大会よりも多くの参加者が得られたこと、また質疑応答では多角的で、熱心、かつ教育的配慮のある質問が多く寄せられ、発表者と活発な討議が交わされたことに、座長として深く感謝申し上げるとともに、研究開発委員会として少々安堵もした。まだ創設間もない試みであり、今後も若手奨励の機会として本セッションが発展的に継続できるよう、学会員の皆様におかれましては、お気づきの点があればぜひご意見を寄せていただきたい。最後に、本セッションに積極的に挑みそれぞれに質の高い研究成果を発表してくれた報告者4名にこの場を借りて感謝を申し上げる。

受賞者コメント

古結敦士

この度は栄えある賞にお選びいただき、厚く御礼申し上げます。

本発表では、患者、研究者、政策関係者の協働による、医療・医学研究政策に資するエビデンスを創出する試みについての報告を行いました。近年、医療健康分野の政策に患者の声を反映させることの重要性が認識されるようになってきました。しかし、どのようにして当事者の声を政策に反映させるかについては、未だ明らかではありません。特に患者数が少ない疾患については、患者の声を政策形成の場に届ける方法すら十分に確立していません。また、当事者の声をそのまま政策担当者に届けるだけではなく、患者が研究者や政策担当者とともに政策について考え、継続的に話し合う場が必要だと考えられます。われわれは、このような場を「エビデンス創出コモンズ」と名付けて提案しました。

今回は、そのコモンズにおけるエビデンス創出の第一段階としての論点抽出について、発表しました。2019年3月に「難病を抱える患者が直面する課題は何か」というテーマでワークショップを開催し、その結果を分析したものを基にオンライン会議を行いました。その結果、医療に関わる課題として、病気や個人に関わるものだけではなく、専門職とのコミュニケーション、医療提供体制など、よりマクロな視点での課題も挙げられました。また、医療に関すること以外にも、生活、精神心理、情報、つながり、認知理解、社会の制度・インフラといった多岐にわたる課題を抽出、共有することができました。

質疑応答では、「参加者が限られる中でどのように得られた知見を一般化できるのか」「得られた知見をどのように政策に反映させるのか」「海外で行われている他の手法を用いなかったのはなぜか」という、学術的にも、実践の面においても大変重要なご質問を多く頂きました。これらの問いに対する考察を深めていくことが、われわれの研究を深めていくことにつながると考えております。

今後は、論点抽出によって得られた課題を「研究テーマ」と捉えることによって、どのような研究テーマを優先して取り上げるべきかというpriority settingを行います。その上で、得られたエビデンスをさまざまな立場の方との意見交換を通して評価し、その質を高めていく予定です。

最後になりましたが、指導教員である加藤和人教授、ならびに共同研究者の皆さま、本研究にご協力いただきました多くの方々に心より御礼申し上げます。