• 日時:2019年12月7日(土)9:30~11:00 
  • 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合講義棟・法学部第1講義室(A会場)
  • オーガナイザー:
    旗手 俊彦(札幌医科大学)
  • 提題趣旨:走り始めたがんゲノム医療~理解は共有されているか
    旗手俊彦(札幌医科大学)
  • ゲノム医療とがん遺伝子パネル検査など
    堤正好(エスアールエル)
  • 新しい遺伝性腫瘍診断の流れと遺伝カウンセリング
    櫻井晃洋(札幌医科大学)
  • 「国民参加型がんゲノム医療」に患者・市民参画は可能か?
    武藤 香織(東京大学)

座長報告

本シンポジウムでは、恒例に従い、まず4名のシンポジストから報告がなされた。旗手(札幌医科大学)は、日本に先駆けてがんゲノム医療を進めている米国の例を紹介し、日本で走り始めたがんゲノム医療は概ね米国のprecision medicine in cancer treatmentを踏襲しているとの報告をした。続いて堤(エスア-ルエル)は、遺伝子パネル検査について報告した。それによれば、がん遺伝子パネル解析ががん医療の現場に導入された背景として、次世代シ-ケンサ-の登場により、全ゲノム解析のコストと時間が大幅に短縮されたこをと挙げた。ただし、得られたデ-タを解釈するコストについての議論が不足していることを指摘した。続いて日本においては、がん遺伝子パネル検査の結果を患者の同意の下、国立がん研究センタ-内に設置されたC-CATに一元的に集約上、その結果は中核拠点病院に設置されたエキスパ-トパネルにフィ-ドバックされ、エキスパ-トパネルから当該患者に治療方針等について説明されるというがんゲノム医療の全体像が示された。次に櫻井(札幌医科大学)は、遺伝性腫瘍とと遺伝カウンセリングに関する総括的説明と遺伝子パネル検査に関する説明を行った後に、遺伝子レべルでがんを診断しようとすれば、がんに関連する多くの遺伝子に何らかのバリアントが発見され、遺伝性腫瘍と非遺伝性腫瘍とを区別することの意義に疑問を呈した。この見解は、がん医療のみならず医療全般において、遺伝子例外主義が遺伝差別を生む可能性までも示唆するものであった。そして結論として医療における遺伝情報の特性を再確認するとともに、その取扱いと当事者保護に関して新たな見解を示す必要を主張した。最後に武藤(東大)は、日本のがんゲノム医療は、官邸と内閣官房の健康・医療戦略に位置づけられ、「国民参加型」医療として急激に推進が図られている問題点を指摘した。そのうえで、がん遺伝子パネル検査の説明・同意モデル文書に関して患者・市民と意見交換をした結果、熟読する時間の確保やデ-タ利用に関する補助的説明の必要性が提起されたという経験や、C-CATへの99%を超えるデ-タ提供同意率(19年10月時点)に鑑み、あらためて患者のためのがんゲノム医療になるための条件整備の必要性を問い、遺伝的特徴に基づく差別禁止をいかに実効性あるものにするかなどの課題を示した。

その後シンポジスト以外のセッション参加者と意見交換がなされ、現場の医師から遺伝カウンセリングのタイミング・方法に関する質問が提起された他、がんゲノム医療に関するテンポが早すぎて国民の理解が形成できないままに進むことへの危惧の念も示された。