• 日時:2019年12月7日(土)13:50~16:00
  • 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合講義棟・第3小講義室(E会場)
  • 座長 安藤泰至(鳥取大学)
  • 13:50~14:10
    安楽死の殺人性と解放性
    -遠藤周作の安楽死観-
    寿台順誠(早稲田大学)
  • 14:10~14:30
    医療現場で安全優先のための抑制は行うべきではない。
    -シジウィックの倫理学の諸方法による考察をふまえて-
    神徳和子(山口大学)
  • 14:30~14:50
    日本の自殺対策を考える
    -仏教の視点から-
    植田美津恵(東京通信大学/愛知医科大学)
  • 14:50〜14:55
    時間調整
  • 14:55~15:15
    縁起的知見と自己決定/関係性についての一考察
    -和辻哲郎における近代的「縁起」解釈の再考を中心に-
    山本栄美子(東京大学)
  • 15:15~15:35
    〈生命力の発展プロセスの3段階論〉と人間の幸福
    -アダム・スミス,J.S.ミル,J.M.ケインズの経済理論と国家論との関連で-
    前原直子(中央大学)
  • 15:35~15:55
    現代日本におけるジェンダー平等とケア労働
    – J.S.ミルの『経済学原理』と『女性の隷従』におけるフェミニズムとの関連で-
    前原鮎美(法政大学)
  • 15:55~16:00
    座長総括・時間調整

座長報告

本セッションでは6題の研究発表が行われた。最初に寿台順誠氏が「安楽死の殺人性と開放性―遠藤周作の安楽死観―」について発表した。遠藤の数々の作品は、どのような場合に安楽死が真に「苦からの解放」と言えるのかと問いかけており、遠藤の答えは、それが心あたたかな共苦の関係の中でのみ成立するというものであったと寿台氏は論じた。続いて神徳和子氏による発表「医療現場での安全優先のための抑制は行うべきではない。」がなされた。神徳氏は、「認知症患者に対して医療現場で行われる抑制は否」という命題について、シジウィックの倫理学の諸方法の中の4つの条件から考察し、この命題が倫理学的に正しいといえるかを検討した結果、正しいと結論づけた。次に、植田美津恵氏の発表「日本の自殺対策を考える―佛教の視点から―」が行われた。植田氏は、釈迦や親鸞の例を挙げながら仏教は自殺を禁じたり批判したりしていないことを述べ、現代においても仏教の教義自体が自殺の抑止力にはならないが、自他の苦悩に向き合う仏教的精神は自殺予防に貢献するのではないかと論じた。続いて「縁起的知見と自己決定/関係性についての一考察―和辻哲郎における近代的「縁起」解釈の再考を中心に―」について山本栄美子氏が発表した。山本氏は業や輪廻を否定する和辻の近代的「縁起」解釈とその批判を軸にして、「縁起」の思想が生命倫理学の自己決定中心主義を批判する関係性重視の根拠になり得るかどうかを論じた。次に前原直子氏が「〈生命力の発展プロセスの3段階論〉と人間の幸福―アダム・スミス、J.S.ミル、J.M.ケインズの経済理論と国家論との関連で―」、最後に前原鮎美氏が「現代日本におけるジェンダー平等とケア労働―J.S.ミルの『経済学原理』と『女性の隷従』におけるフェミニズムとの関連で―」という発表を行った。医療経済についての議論を別にすると、経済学の研究者による本学会での発表は珍しく、既存の生命倫理の議論とどのように接続するのかがわかりにくい部分もあったが、今後の展開が興味深い。

いずれの発表においても活発な質疑応答が行われ、得てして個々の流行のトピックだけに集中しがちな生命倫理の議論にとって、思想や宗教の基盤を論じることの意義を再認識させられた。今後はこうした一見迂遠とも見える思想的議論と、生命倫理の個々のトピックの議論との間の実りある往還関係を築いていくことが求められよう。