- 日時:2019年12月7日(土)9:30~11:00
- 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合講義棟・第2小講義室(D会場)
- オーガナイザー:
- 小門穂(大阪大学)
- 柳原良江(東京電機大学)
- 報告者:
- 小門穂(大阪大学)
- 柳原良江(東京電機大学)
- 鈴木良子(フリー編集者/フィンレージの会)
座長報告
本ワークショップでは、生殖に関わる様々な〈専門家〉による、需要の喚起・推進、それを必要な行為と位置付ける正当化の過程を、三つの話題提供により共有した上で、〈専門家〉が積極的に人体や技術を読み替える現状についての議論を行った。
第1報告「生殖する身体の性別はいかに判断されるのか─フランスの動向から」(小門穂)世界的には性別表記の変更にあたり性別適合手術を不要とする傾向にある。フランスでは、2016年に、医療的措置や外科的手術を受けていないことは表記修正の申請の拒否を正当化できないと定めた。このように生殖機能を維持したままでの性別変更を認めるに至った議論の検討から、性別表記の変更を求める当事者の意思が重視されるようになっていること、裁判例から当事者が専門家に働きかけて「親」の定義を揺るがしている現状があることを示した。
第2報告「専門家による代理出産の再構築─代理母をどう名付けるか」(柳原良江)米国および日本において、代理出産を引き受ける女性の表記を辿りながら、そこに込められた政治性を検討した。2000年代から米国では、代理出産に携わる医療関係者が中心となり「代理母(surrogate mother)」が「懐胎妊娠者(gestational carrier)」として記載されるようになった。この表記の変遷をたどり、現場の専門家が代理母から「母」の含意を排除した経緯を説明した。さらに、日本では、「母性」が強調されながら、「代理出産」と「代理母出産」という2つの表現が流通してきた経緯を示した。
第3報告「AUGMENT療法(ミトコンドリア自家移植)における〈専門家〉と〈患者〉」(鈴木良子)米国の企業が開発したオーグメント療法(ミトコンドリア自家移植)は2015年に日本産科婦人科学会に〈臨床研究〉として承認され、国内で複数の児が誕生した。同療法は米国では遺伝子治療の一種とみなされ実施できずスペインや日本等で実施された。開始当初から科学者コミュニティからは様々な懸念が示され、2018年に開発企業は他のバイオ企業に吸収合併、技術提供じたいが中断されている。こうしたエビデンスに乏しい新技術が科学コミュニティからの批判、社会的批判とは独立し、〈不妊治療〉の名で推進・実施されていく構造を考察した。
報告に続いてフロアを交えた活発なディスカッションが行われた。医学者から「それぞれの報告における『専門家』とは誰なのか」、哲学者から「『生殖』の概念が、インフェクションやパラサイトなど性別と関係ないものとして再定義されているのではないか」、また、法学者から「『親』が脱性化される動きは、『親の普遍的役割』の検討へと向かうのか」といったさまざまな領域の研究者からの多様な質問や指摘があり、報告者からの応答がなされた。