- 日時:2019年12月8日(日)14:20~15:30
- 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合総合講義棟・第2小講義室(D会場)
- 座長:服部健司(群馬大学)
- 14:20~14:40
超高齢社会の地域包括ケアにおけるAI(人工知能)をめぐる法的社会的倫理的課題
-人間中心の多機関・多職種連携のガバナンス-- 福田八寿絵(鈴鹿医療科学大学)
- 福田耕治(早稲田大学)
- 14:40~15:00
医療AIのELSI
-形成外科領域における課題-
恋水諄源(市立福知山市民病院/京都府立医科大学) - 15:00~15:20
人工知能における痛み、苦しみ、そして共感へ
-道徳判断に関する功利主義的アプローチの帰結-
戸田聡一郎(東京大学) - 15:20~15:30
座長総括・時間調整
座長報告
福田八寿絵氏(鈴鹿医療科学大)・福田耕治氏(早大)の「超高齢社会の地域包括ケアにおけるAIをめぐる法的社会的倫理的課題」では地域包括ケアが推進されるに至った背景と目標、そこにAIを導入する場合の課題、日欧の倫理規範が提示された。介護者不足を補うロボットの使用を受け入れるかは対象者ごとに異なるだろうし、AIによって生活リズムを予測したり膀胱内尿量を検知し排泄のタイミングを見定めるなどしてケアの効率化を図ろうとすると尊厳やプライバシーの問題が浮上するなどの例も示され、またAIを使う人間を育てる教育が必要であると締めくくられたが、全体としては論点整理を柱とする総説的な発表で、より踏み込んだ考察は次回以降に報告されるものと期待された。
恋水諄源氏(福知山市民病院/京都府立医大)は「医療AIのELSI」で、形成外科での診療の流れとその特異性から説き起こした後、匿名化困難な外貌画像情報におけるプライバシー保護や、個体ごとに精緻に造形した印象模型やサージカルガイドの術後の保管のあり方などの具体的な問題を示した。また、好まれる顔貌・形態を予測するためにAIを用いる際いかなるデータセットを用いるべきか、従来は複数の形成外科医が合議して審美的判断を行ってきたがAIがかかる判断から外れた治療提案をしてきた時にはどうするのか、AIの判断の適切さはいかに評価されうるのかが問われ、そこからさらに、形成外科に特異的な価値の一つである美に標準化はなじむのかという(AI以前の)根本的な、美学の問いが望見された。
マティスの描いた金魚の絵とオイラーの公式と、その美を比量することから始められた戸田聡一郎氏(東大)による「人工知能における痛み、苦しみ、そして共感へ」は、数理モデルと道徳とが交差する場の報告であった。先の2演題がAI導入によって生じる倫理問題を論じたのに対して、この演題では共苦的に映る振舞いをするロボットの設計とその道徳的地位が焦点化された。痛みを想像させる映像を観せられた者たちの痛みの感じ方を学習させることで、他人の痛みの(いまは未だ高くない)推測計算精度を高めることが可能になった時、義務論的な心術や功利主義的な快・不快を伴わないながらも、あたかも他人の痛みを感じ共感しているかのような振舞いをするロボットが登場するだろう。かかるロボットを有徳とみなしてよいのかという問いが問われなければならないと論じた上で、氏はそれに対して是とする答えを用意した。