- 日時:2019年12月8日(日)9:00~10:30
- 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合総合講義棟・法学部第2講義室(B会場)
- オーガナイザー:
大西香代子(甲南女子大学) - 精神科訪問看護の充実とリカバリー志向のケアへの転換
松岡純子(甲南女子大学) - 尊厳を奪う身体拘束の実態
-15年で2倍となった身体拘束。ケリー・サベジさんの死から考える-
長谷川利夫(杏林大学) - 指定発言:
服部健司(群馬大学)
座長報告
精神科医療の倫理的問題を扱う第10回目の本シンポジウムはこの10年の変化を振り返り、改めて課題を検討することを目的とした。
まず、オーガナイザーの大西より本シンポジウムの趣旨とこれまでのテーマが紹介され、精神病床数や平均在院日数等、医療の領域ではこの10年、あまり変化していないことがグラフ等を用いて示された。
次に、甲南女子大学の松岡純子氏より、この10年で変わったこととして「精神科訪問看護の充実とリカバリー志向のケアへの転換」が発表された。10年前には極めて少なかった精神科訪問看護を実施する施設数・実施件数が増加したこと、特に訪問看護ステーションにおける実施件数は2015年から2017年の間で約1.8倍になったこと、症状の消失という医学的な回復ではなく、自身の人生に新たな意味と目的を見出す「リカバリー」の概念が精神保健領域に広がり、リカバリーを理念に掲げる訪問看護ステーションが増加してきたこと、それに伴い当事者の権利が尊重されるようになりつつあることが報告された。
その後、杏林大学の長谷川利夫氏より、この10年で変わらなかったこととして「尊厳を奪う身体拘束の実態-15年で2倍となった身体拘束。ケリー・サベジさんの死から考える-」が話された。スライドの他、実際の拘束具の回覧、多数の新聞記事の配布が行われ、身体拘束にはエコノミークラス症候群のリスクがあり、拘束中の突然死が3年で40人以上に上ること、従来開示されていた詳しい調査が非開示となる例が増加していること、入院患者における拘束率は都道府県により10倍以上の格差があること、メリット・デメリットの議論を超えて生命を危険にさらす拘束は廃止すべきであることなどが報告された。また、拘束増加の背景の一つとして、日本精神科病院協会長の「精神科医にも拳銃をもたせてくれ」「との意見も批判された。
ディスカッションに移る前に、指定発言者の服部健司氏より、次の10年どこに働きかけるべきか、家族・地域のリカバリー理解をいかに促進すべきか、絶対安全な医療処置はなく、どうメリット・デメリット論を超えるのかなどが質問された。
その後、フロアから拘束が増加したのは入院患者の高齢化や認知症患者の増加によるものではないのかとの意見や転倒事故を完全に防ごうとすることが不合理なのではないか、暴力をふるう患者がいるなかでどう患者の安全を守るのかなど、活発な議論が交わされた。