• 日時:2019年12月7日(土)16:10~17:40
  • 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合講義棟・法学部第2講義室(B会場)
  • オーガナイザー:
    四ノ宮成祥(防衛医科大学校)
  • ゲノム編集技術が有する科学技術上のデュアルユース性について 四ノ宮 成祥(防衛医科大学校)
  • ゲノム編集技術の水産業への応用について
    木下政人(京都大学)
  • ゲノム編集技術が食・農分野に及ぼすガバナンス上の課題
    松尾真紀子(東京大学) 
  • ゲノム編集技術の社会応用をどう考えるか
    三成寿作(京都大学iPS細胞研究所)

座長報告

食・農分野へのゲノム編集の応用は、人体への遺伝子操作・介入に比べて倫理面、経済・産業面でのハードルが低く、技術的・社会的背景をもとにゲノム編集作物がいよいよ市場に出回ろうとしている。そこで、本技術の受け入れの前提となる条件、社会世論への影響、食の安全との関わりの理論づけなどにつき議論する機会として本シンポジウムを企画した。

まず、オーガナイザーの四ノ宮から、本シンポジウム開催の趣旨説明並びにゲノム編集技術が有する科学技術上のデュアルユース性についての導入的問題提起を行った。そして、現在特に問題となっている課題と食・農分野へのゲノム編集の応用との関連性が提示された。

次いで、京都大学農学研究科の木下政人氏から、ゲノム編集技術の水産業への応用について、これまでの育種法との比較という観点から、技術的な特徴と導入に際しての利点が述べられた。特に、ミオスタチン・ノックアウトによる肉付きの良いマダイ作製技術の要点が述べられ、遺伝子組換えとの相違並びに今後解決すべき点などが示された。

東京大学公共政策大学院の松尾真紀子氏から、ゲノム編集技術が食・農分野に及ぼすガバナンス上の課題について、ゲノム編集技術に関する学会や国家的研究動向のトレンドを踏まえ、規制上の取り扱いに関する説明がなされた。特に、SDN1~3の違いと食品の規制に関する基本的考え方、カルタヘナ法における取り扱いと食品衛生法との比較などの点から、現在の課題が述べられた。そして、安全性担保の観点からのレギュラトリーサイエンスの在り方と責任ある農業分野におけるゲノム編集の利用の重要性が提示された。

京都大学iPS細胞研究所の三成寿作氏は、ゲノム編集技術の社会応用をどう考えるかという立場から、ゲノム情報を取り巻く研究の現状、パブリックエンゲージメント(PE)の重要性、公的研究資金の配分の3点について言及した。そして、研究に対するモニタリングやマネジメントの重要性、研究者と種々の専門組織の連携、低関心層も含めた関与の必要性を述べた。さらに、PEやELSIへの公的研究資金配分の熟慮が鍵を握る点を強調した。

本課題を含めた新興生命科学技術のPE,ELSI並びに責任あるイノベーション(RRI)の問題は、研究の発展や産業の振興と社会の受容のバランスを考える上で多角的な議論が必要であり、今後も継続的に本学会で議論していくことが望ましいと考えられた。