- 日時:2019年12月7日(土)11:10~12:40
- 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合講義棟・第3小講義室(E会場)
- 11:10~12:40
座長 門岡康弘(熊本大学) - 11:10~11:30
高齢被収容者にとっての「善い死」とは何か
神馬幸一(獨協大学) - 11:30~11:50
がん終末期における持続的深い鎮静と患者の「見捨てられ感」
吉田勝也(済生会横浜市東部病院) - 11:50〜11:55
時間調整 - 11:55~12:15
フランスにおける治療中止をめぐる課題
-行政裁判所の判例の分析をもとに-
小林真紀(愛知大学) - 12:15~12:35
終末期の意思決定支援に向けての日本人の意識- 冲永隆子(帝京大学)
- カール・ベッカー(京都大学)
- 12:35~12:40
座長総括・時間調整
座長報告
本セッションには多くの聴講者が出席し、会場は満員となった。以下、発表者4名の講演要旨を報告する。
神馬幸一氏(獨協大学法学部)は「高齢被収容者にとっての「善い死」とは何か」と題した発表を行い、わが国の矯正施設では被収容者の高齢化により施設内死亡が増加する一方で、患者は身柄釈放の限界などから適切な終末期ケアを受けることができない問題点を指摘した。そして、解決として、欧米における人権を基底とする議論や医療の同等性原理と社会契約といった国家的責務に基づく議論を紹介そして検討し、日本では終末期の被収容者に施設内で尊厳ある死を迎える機会を与えるべきと結論した。
吉田勝也氏(済生会横浜市東部病院緩和ケア内科)は、「がん終末期における持続的深い鎮静と患者の「見捨てられ感」」と題した発表を行った。緩和ケアでは症状の緩和に力点が置かれるため、医療スタッフはそれに気を取られ、患者の心理的苦悩や死生観に十分対配慮できないことがある。このような時に患者は「見捨てられた感」をもちやすい。そして、症状緩和が困難となり、主治医から持続的深い鎮静が提案されると、患者はますます「見捨てられ感」を深め、穏やかな旅立ちを支えるという緩和ケア本来の目的が達せられないのではないかと考察した。
小林真紀氏(愛知大学法学部)は、「フランスにおける治療中止をめぐる課題‐行政裁判所の判例の分析をもとに‐」と題した口演を行った。2016年に制定された、「不合理な執拗さ」概念をふくむ治療中止の根拠や手続きを示すフランスのクレス・レオネッティ法を紹介し、同法施行後に発生した二つの判例を分析した。そして、治療中止を法律で明文化することの意義・立法化の限界と裁判所介入の必要性・(未成年)患者‐家族‐医師の三者関係がよりよく構築されることの重要性・手続き遵守と法文に記載されない配慮の徹底の4点を治療中止と関連法制定の重要課題として抽出した。
冲永隆子氏(帝京大学学修・研究支援センター)は「終末期意思決定支援に向けての日本人の意識」と題して発表を行った。自ら実施したアドバンス・ケア・プランニング(ACP)に関する実態調査の結果などに基づき、実際にACPを行う市民は少ない点、患者として配偶者などの家族と人生の最終段階について事前に話し合うことの困難について問題が提起された。多くの聴講者から質問や意見が寄せられ、活発なディスカッションが行われた。