• 日時:2019年12月8日(日)9:00~10:30
  • 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合総合講義棟・法学部第1講義室
  • オーガナイザー:
    会田薫子(東京大学)
  • 高齢患者の透析療法におけるフレイル評価の重要性
    -臨床倫理的に適切な意思決定支援のために-
    会田薫子(東京大学)
  • 維持血液透析の終了を表明したがん終末期患者への意思決定支援
    進藤喜予(市立東大阪医療センター)
  • 〈情報共有-合意モデル〉=〈ACPモデル〉による意思決定支援の実現に向けて
    清水哲郎(岩手保健医療大学)

座長報告

人生の最終段階における維持透析療法のあり方をめぐって課題が山積するなか、本シンポジウムでは臨床倫理的に適切な意思決定支援について、医学的な面と患者の人生の物語りの両面から検討した。

まず、会田は提題の趣旨説明として、意思決定支援の基本は医学的に適切な判断を踏まえ、本人の価値観・人生観・死生観に照らし、本人の生活と人生の物語りのなかで最善の選択に到ることを支援することであり、本人の語りを聴くことが重要であると述べた。そのうえで、「高齢患者の透析療法におけるフレイル評価の重要性」と題して、医学的判断の基礎としてフレイル(frailty)の程度を評価することが求められていると述べた。フレイルが進行すると医療行為の侵襲性は本人に悪影響を及ぼすため、透析療法を行わない保存的治療法は、フレイルが進行した高齢者にとって重要な選択肢となるとした。

進藤は「維持血液透析の終了を表明したがん終末期患者への意思決定支援」と題し、生命予後が3か月から半年と診断された透析歴30年の70歳代の患者が、家族の節目のお祝いを機に透析療法を終了し人生に幕を引きたいと希望したケースに関して、患者との対話を中心として報告した。進藤は、透析療法そのものの「しんどさ」も含めた患者の語りと、患者と家族と医療・ケア従事者とのコミュニケーションの有り様および臨床倫理委員会における検討について報告しつつ、まだ予後が数か月見込める患者において、生命維持治療を終了することの是非を問い、医師としての懊悩を語った。

清水は「<情報共有―合意モデル>=<ACPモデル>による意思決定支援の実現に向けて」と題して講演し、本人の人生と価値観が反社会的なものでない限り、本人にとっての最善を探る際の基準になると述べた。そして、本人の人生・価値観の観点で本人の最善を探るために大切なことは本人の語りを聴くことであり、進藤が報告した事例について、その語りに表れた本人の人生理解や価値観と医学的妥当性・適切性の判断とは調和的であり、関係者の合意に到ったと言えると述べた。

フロアからは、事例の本人が語った「しんどさ」の詳細に関することや、緩和ケアの実際、家族の悲嘆への対応などについて質問がなされた。また、維持血液透析の終了が必ず苦痛をもたらすわけではなく、穏やかに最期を迎える患者も多いという臨床経験も語られた。維持透析療法の差し控えや終了に反対する意見はみられなかった。