- 日時:2019年12月8日(日)9:00~10:30
- 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合総合講義棟・第1小講義室(C会場)
- オーガナイザー:
川口有美子(ALS/MNDサポートセンターさくら会) - 迷えるALS患者の倫理コンサルテーション
-どちらを差し出す?社会サービスかそれともモルヒネか?-
川口有美子(ALS/MNDサポートセンターさくら会) - 生きる力 コミュニケーション
-ALSの意思伝達支援を例に-
本間武蔵(都立神経病院) - 筋萎縮性側索硬化症(ALS)等神経筋疾患患者のALP(Advance Life Planning)
伊藤道哉(東北医科薬科大学)
座長報告
平成30年3月改訂された「人生最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、ACPを用いれば、たとえ意思疎通が困難な者であっても、チームでよく話し合うことにより、最善の医療方針が決定できるということになった。しかし、それを逆手に取れば、終末期ではないが、意思疎通が困難な者(究極的な身体状況や重度コミュニケーション障害や性格・認知の変異を伴う者)には、生存装置の取り外しが、本人のその時の同意なくとも行われうるということである。
ALS患者に特有の重度障害(嚥下や呼吸障害、言語障害、認知や性格の変容など)に対する支援技術は、ALSのケア研究を専門としない医療職や倫理学を研究する人々の間では、今はまだ、ほとんど知られていないともいえるのだが、ALS患者のACPを行っていく上では、必要不可欠な知識である。
「情報や支援が十分に与えられないALS患者の自己決定を重視するのではなく、患者の生きる力を育む支援方法をよく知っている、あるいは実践している者たちも参加して、倫理コンサルテーションが行われることが望ましい」いうことが、本シンポジウムの狙いであった。
本シンポジウムでは、ALS患者会や専門病院等で、日ごろからALS患者のエンパワメントを行っている3名が報告を行った。
まず最初に川口から、QOLの向上が難しいと判断され、病初期からネガティブなアドバイスを頻回に受けたり、何度も意思確認させられたりするケースが少なくないこと、そしてモルヒネ等の投薬で朦朧とさせて、意思の撤回ができない状態にして看取る「緩和ケア」の在り方を問題として提起した。家族の負担を軽減するためには、公的介護サービスの利用が不可欠だが、自治体交渉なども含めて法律家のアドバイスが必要なケースもある。
本間は、都立神経病院での作業療法の実践を、ビデオ映像を使って報告した。延命はしないと言い続けていたマリンバ奏者の演奏活動を作業療法で支え続けた結果、呼吸器装着の意思決定につながった場面では、会場の涙を誘った。全臨床過程でコミュニケーション支援が必要で、病初期の患者は本音を伝えられないこと、患者がライフワークを貫こうとしたときに、胃ろう、気管切開、人工呼吸器が「手段」になること、患者同士のつながり、家族会が非常に大きな力をもっていることなどを報告した。
伊藤は、ALSは特殊な疾患であり、ACPでは不十分であるとして、ALP(Advance Life Planning)を提唱した。ALSに出現するFTD(前頭葉側頭葉型認知症)やTLS(超重度のコミュニケーション障害)への対処においても、ALSの生きる力を育む支援ができる専門職やピアサポーターが、患者に代わってALPを提示・更新するほうが、患者本人や家族のニーズに沿う可能性が高いことを述べた。