• 日時:2019年12月8日(日)9:00~10:30
  • 会場:東北大学川内キャンパス 文科系総合総合講義棟・第2小講義室(D会場)
  • オーガナイザー:
    • 山本圭一郎(東京大学)
    • 伊吹友秀(東京理科大学)
  • 報告者:
    • 伊吹友秀(東京理科大学)
    • 山本圭一郎(東京大学)
    • 阿久津英憲(国立成育医療研究センター)

座長報告

2018年末から世界中でゲノム編集技術の臨床応用の是非をめぐる議論に拍車が掛かり、2019年3月にはヒトの生殖細胞系列へのゲノム編集を伴うあらゆる臨床応用について世界的なモラトリアムを求める声明がNature誌において公開された。それ以降、ゲノム編集技術の臨床応用を現時点で中止するよう促す一方で、どのような条件下であればその臨床応用を科学的・倫理的な観点から許容できるのかについて開かれた国際的議論が必要であるという声も強くなってきた。このような国内外の動向を踏まえて、本ワークショップではゲノム編集技術の臨床応用の是非および許容可能性について問題提起するとともに、フロアを交えて開かれた議論を行った。

まず、伊吹と山本は、本ワークショップ全体の趣旨を説明したのち、上述の国内外の動向、特にイギリス・アメリカ・ドイツ・日本における規制状況ならびに臨床応用に伴う主な倫理的課題について整理を行った。
 続いて、生殖医療を専門とする科学者である国立成育医療研究センターの阿久津英憲氏に登壇いただいた。阿久津氏は、科学的な側面からゲノム編集技術について分かり易い解説を行い、ヒト受精胚研究の世界の現状とその臨床応用の科学的重要性、体細胞と生殖細胞を対象とする日本における規制状況、ゲノム編集技術の臨床応用に関する科学的・医学的課題ならびにその社会的倫理的課題について発表を行った。

以上の発表を受けて、特定質問者として東京大学の井上悠輔会員と国立がん研究センターの松井健志会員にも登壇して頂いた。井上会員は、生殖補助医療をめぐる議論の変化、「成育医療」の二つの側面、「成功」するほど問題を先鋭化させる治療も?という観点から、ゲノム編集技術の最前線で活躍されている阿久津氏にコメントや質問を投げかけた。次に松井会員は、生殖医療応用に踏み出す「前」に検討すべき倫理的・法的・社会的課題を整理しながら、ゲノム編集技術が「臨床研究」ルートを通る場合に、受精胚や胎児といったこの世に生まれる前の存在を対象とする研究特有の課題があること、また、「治療」ルートを通る場合にも別の課題が山積していることを指摘した。

特定質問の後、残りの時間はすべてフロアからの質問と主に阿久津氏による応答に費やされた。参加頂いた会員から多様な質問が出て、ディスカッションは盛り上がった。本ワークショップは、生命倫理学者が現場の科学者と意見交換できる場となった。