• オーガナイザー:
    松原洋子 (立命館大学)
    川口有美子(ALS/MNDサポートセンターさくら会)
  • エンドオブライフ期の医療・ケアの臨床倫理
    清水哲郎(岩手保健医療大学)
  • 人生会議の現状と人生最終段階の未来 -科学の限界と確信の謎-
  • 川島孝一郎(仙台往診クリニック)
  • 指定発言:
    樋口直美(レビー小体症当事者)
    橋本みさお(ALS当事者)

座長報告

本シンポジウムでは、人生の最終段階ガイドラインについて生命倫理研究者、医師、患者のそれぞれの視点から検討し、日本のエンドオブライフ・ケアをめぐる生命倫理の課題を学会員と共有することを目指した。まずシンポジストの清水哲郎氏(岩手保健医療大学)、川島孝一郎氏(仙台往診クリニック)が報告し、続いて指定発言者として樋口直美氏(執筆家・レビー小体病当事者)、橋本みさお氏(NPO法人 在宅介護支援さくら会代表・ALS当事者)が意見を述べた。オーガナイザーは学会企画委員会委員の川口有美子氏と松原がつとめた。

清水報告「エンドオブライフ期の医療・ケアの臨床倫理」では、人生の最終段階に関する緩和ケアの倫理の要を、「生を肯定し、死へと向かうあり方(dying)をノーマルな過程とみなすこと」とし、「自らに価値があるという感じ」すなわち尊厳をもって死に至るよう支援するエンドオフライフ・ケアのありかたが示された。そして、厚労省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年)が想定している意思決定プロセスは、「説明—同意モデル」ではなく「情報共有—合意モデル」であることが確認され、家族等は本人の人生観・価値観を聴き、本人の意思が推定できる役割をもつことが期待されるとした。続いて、川島氏は「人生会議の現状と人生最終段階の未来——科学の限界と確信の謎」と題する報告で、「人生会議」(ACP)における間主観性の認識の意義を指摘した。医療者は近代的な心身二元論ではなく現象学的な世界観にもとづき、死の概念が患者と医療者の間で間主観的に形成されることに医療者が自覚的になり、「よりよく死なせる」という考えにとらわれないようにすること、またアドバンス・ライフ・プランニングの観点から患者の生活を支えていくことの重要性を強調した。指定発言では樋口氏が当事者としての切実な体験から、認知症の人々の声に耳を傾け、人としての尊厳を守ることの大切さを具体的なエピソードを交えて説得力をもって語った。また、西行の歌を引用しながらの橋本氏のコメントは、医療者や専門家が陥るかもしれないエンドオフライフ・ケアにおける定型的な死の概念をとらえなおし、患者の生について考える機会となった。質疑応答では、フロアから様々な観点からの質問やコメントがあり、またALS当事者からの発言もあり、活気のある議論が行われた。