本書は2016年3月発行の浅井篤・大北全俊編『少子超高齢社会の幸福と正義』の継承企画で、医療に関わる国内外の20の時事的な倫理・法・社会的な問題を、多様な背景を持つ19名の筆者が独自の観点から論じる試みです。執筆陣のバックグランドには政治哲学・公共哲学の専門家、生命医療倫理領域の教育研究者、弁護士、助産師、医師、看護師、看護学教員及び看護情報学の専門家、哲学者、社会学者、ソーシャルワーカー等が含まれます。 

テーマを下記に列挙しますが、一見していただければその幅の広さや新しさを実感していただけるでしょう。各論考には2人のコメンテーター(編著者3名と東北大学大学院国際文化研究科教授の江藤裕之氏が担当)がコンパクトなコメントを書いており、ひとつのテーマについて最低3つの見解を知ることができます。通常のテキストでは得難い機会になるのではないでしょうか。一編の長さは3000-5000字で楽に読める長さです。まさに混沌とした現代社会を映したラインナップになっていますので、是非手に取ってください。

【テーマ】

  • 「医療は人間の幸福にどれくらい寄与できるのだろうか。哲学的・倫理的思考の意義」  
  • 「医師の倫理教育の現状はどうなっているか」
  • 「健康格差をこれ以上拡げないために、今後の日本の医療制度はどうあるべきか」  
  • 「出生前診断、特にNIPTは社会にどのような影響を与えるのか」                        
  • 「「医療にかかわる有害事象調査」による医療従事者の権利侵害」
  • 「もはや産科で子どもは生まれない?産科混合病棟の実態」
  • 「オプジーボなど超高額医薬品は使用制限するべきか」
  • 「認知症高齢者の本能に基づくセクシャリティに関する倫理的配慮をどうするか」
  • 「死亡診断の規制緩和、看護師の代行について考える」
  • 「守秘義務と警告義務 どちらが重いのか? 精神障害者が起こす殺傷事件から考える」
  • 「「薬害」といわれている子宮頸がん予防ワクチン接種を推奨するべきか」
  • 「人工知能の臨床への導入によって、医師の役割はどう変わるか」
  • 「患者申出療養は患者にとって幸福な選択なのか」
  • 「なぜ日本では代理出産が事実上禁止されているのか」
  • 「病院の方針として「呼吸器は外しません」と定めることは倫理的に許されるのか」
  • 「抗がん剤治療を続けますか?人工呼吸器をつけますか?〜チーム医療において在宅医療における告知は誰の役割か?〜」
  • 「地域包括ケアシステムの社会にあって、住民は市どのようなヘルス・リテラシーを身に着ければよいのか」
  • 「看護における情報教育はどうあるべきか」
  • 「プラシーボの臨床使用について看護の視点から考える」
  • 「超高齢社会において健康寿命を延伸するために何をすべきか」

最後に本企画を提案していただき、実現に導いた日本看護協会出版会の編集担当の青野昌幸氏に感謝の意を表します。

浅井篤(東北大学大学院医学系研究科医療倫理学分野)