本書の初版は2007年です。当時は、国内に看護倫理の教科書はなく、欧米や他職種(医師・生命倫理学者)の知識に頼っていました。看護職である著者一同は、日本の社会と看護・医療に即した看護倫理のテキストを自分達で著し、看護倫理の枠組みと諸概念を示したいと考え、この本を書き下ろしたのでした。以来、日々の看護実践を見つめた倫理の書として、学生のほか教育者・実践者にも広く親しまれています。
改訂第3版の目次概要は以下のとおりです。
Ⅰ 看護倫理の基礎
・倫理、看護倫理とは
・看護倫理のアイデンティティと固有の歴史
II 看護倫理のアプローチ
・徳の倫理:「徳」とは、西洋/東洋の徳、よい/よくない看護師
・原則の倫理:倫理原則、状況の個別特異性と倫理原則
・ケアの倫理:ケア/ケアリング、場の中にいること、ケアの相と看護実践
III 看護倫理に関係する重要な言葉
①和、②東アジア文化圏の価値観–共同体,家,親孝行,礼,面子,和、③コンパッション、④共感、⑤道徳的感受性と道徳的レジリエンス、⑥専門職、⑦対象者中心の看護、⑧尊厳、⑨看護アドボカシー、⑩協力と協働、⑪パターナリズム、⑫個人の権利、⑬看護職の責任、⑭インフォームド・コンセント、⑮情報プライバシーと守秘義務、⑯災害におけるトリアージ
IV 倫理的意思決定のステップと事例検討
・道徳的不確か、道徳的苦悩、道徳的ジレンマ
・意思決定のための4ステップモデルと演習
・事例検討の意義と注意
V さまざまな看護活動と倫理
・人生の最後を生きる人々への看護と倫理
・地域看護・小児看護・精神科看護・遺伝看護と倫理
・性と生殖をめぐる看護と倫理
・異文化間の看護と倫理
VI 社会的要配慮者の看護と倫理
・認知症:認知症者の意思決定支援、安全確保と自由の保障、家族介護者
・難病:とくにALSとその意思決定支援
・貧困:健康格差、対象者の看護
・虐待:とくに家庭内虐待の特徴、早期発見、関係機関との協働
・受刑者:定義、デュアルロイヤリティ、無知の姿勢
・障害者:定義、一人ひとり異なるニーズ、対象者との対話
VIIその他の看護活動と倫理
・看護管理者の役割と倫理:職場の倫理的課題を話し合う場、管理者の倫理的課題
・看護部倫理委員会:倫理の制度化、委員会の設置背景と課題
VIII 看護研究における倫理
・主な指針:ニュルンベルグ綱領、ベルモントレポート、国内指針
・看護研究と倫理的配慮:構想・計画段階、実施・分析段階、発表・普及段階
小西 恵美子(鹿児島大学医学部)