本書は、先進生命科学が引き起こす倫理的、法的、社会的問題などについて合成生物学の面から焦点を当てたものです。東京大学名誉教授の島薗進先生と共同編集させていただきました。第1章から第4章の内容は、以前ゲノム問題検討会議の場において発表、議論したもので、今回その内容をもとに加筆、情報付加を行い、1冊の本としてまとめ上げました。

 序章(担当:島薗進)は、本のタイトルそのものの「合成生物学は社会に何をもたらすか」をテーマに、ゲノムテクノロジーから合成生物学に及ぶ生命科学技術の社会における問題を人文社会科学的視点から捉え紹介しています。本書が浮き彫りにする合成生物学に纏わる問題の数々について、入門的な理解を勧めようとするパートになっています。

 第1章(担当:木賀大介)は、合成生物学とは何かについて純粋に科学的見地からの紹介や産業応用についての内容であり、研究者が何を考えて研究を行っているのかを知ることができます。ストレートに研究の面白さが伝わってくる内容です。

 第2章(担当:四ノ宮成祥)は、合成生物学を利用したウイルス作成がどこまで進んでおり、そのデュアルユース性についてどのような議論が巻き起こっているのかについて紹介しています。生物兵器禁止の議論とも一部関係しています。

 第3章(担当:須田桃子)は、「捏造の科学者 STAP細胞事件」(文春文庫)でも明快な論調で科学界の実情を描写したジャーナリストの視点から、合成生物学をめぐる倫理的な問題とDARPA(国防高等研究計画局)の野心的な研究内容を紹介しています。

 第4章(担当:原山優子)は、総合科学技術・イノベーション会議の議員としての経験をもとに、同会議の役割、科学技術イノベーション政策の在り方、その社会的コンセンサスなどについて言及しています。

 合成生物学という研究分野は大きな可能性を秘めています。それだけに、それが我々の社会や生活にとって安全で豊かな結果をもたらすよう進めていく必要があります。本書が、それを考えるきっかけになればと思います。

四ノ宮 成祥(防衛医科大学校)