本書は、医療現場で働く人々や、それを目指す医学生・看護学生、さらには介護者や社会福祉士のような医療・看護の現場に携わる人々向けに編まれた人権・倫理の手引書です。こうしたケアの担い手には、高度な医療・看護の技術だけでなく患者や家族の心と向き合い、その尊厳を保障するために高い人権意識と倫理観が求められます。

 本書は、そのための人権や倫理とその実践のノウハウを平易に解説します。人権や医療・看護の倫理の習得は、患者の権利擁護や自己決定の手助けになり、質の高い医療サービスの提供にもつながります。

 本書の構成は、次の通りです。

 第1章『医療・看護にかかわる人権の基礎知識』では、医療現場の具体例に沿いながら、人権の意義・歴史・内容や性質について記述しています。

 第2章『医療・看護現場で役立つ倫理的アプローチ』では、患者と医療者の関係は最善のものにするための、医療・看護現場で役立つ倫理的アプローチの基本や、その実例の<患者の権利章典>について紹介しています。

 第3章『<老い>と<認知症>をめぐる倫理的仮題』では、超高齢社会の影響下に 医療現場で問われる<老い>と<認知症>について医学的視点を交え記述しています。

 第4章『先端的医療における倫理的課題』では、第2章に続き、医療の倫理的課題へのさまざまなアプローチを紹介し、それぞれ事例を示して解説します。この2つの章の学習で、臨床の倫理的問題に一定の解答が出せるように構成されています。

 第5章『看護倫理』では、医療現場で看護師に必要な倫理と歴史の知識、生命倫理と看護、看護師やその他の医療者と患者さんとの関係、看護師の守秘義務について記述しています。

 第6章『看護師の倫理的課題』では、第5章をふまえ、臨床でのリスク・マネジメントや患者への接遇の課題について深めていきます。

 第7章『看護師の法的責任』では、医療事故や医療訴訟について法学の視点から分かりやすく叙述しています。

 第8章『医療・看護の事故と医事法』では、医療現場の長時間労働、精神障害者への医療、<診療ガイドライン>の功罪、現在の緊急課題である<感染症への対応>などについて解説します。

 最後の『ケース・スタディ編』では、各章で学習した内容をより深めるため、再発がん手術とインフォームド・コンセント、「徘徊」、要介護高齢者虐待、第18染色体トリソミー、ECMOとトリアージ、予防的乳房切除術、LGBTXと生殖補助技術、電子カルテと医療過誤などをテーマにした12のハード・ケースを掲載しています。各事例から医療倫理の問題を引き出し、それにさまざまなアプローチで、解答候補の選択肢をあれこれ考えたりしながら、一定の結論を導きだすといった、倫理トレーニングをすることが目的です。

 以上、本書を、人権や倫理を医療・看護の現場で実践的具体的に展開する指針として、医療者・研究者はもとより患者や家族まで多くの人々にご活用いただければ幸甚です。

                                    村岡 潔

☆村岡先生より、ご自身のクリニックで配布しているコロナワクチンについての注意書きを、ご参考までにとのことで添付いただきました。↓↓
Q&Aワクチン接種の注意書き ver3