新生児マス・スクリーニングとは、子ども(新生児)を対象とした、検査のことです。この検査は、子どもの先天性の疾患を早期発見・早期治療を目的として実施されてきました。現在、生まれてくるこどもの「ほぼ全員」がこの検査を受けています。
この本では、この、「子どもの先天性の疾患を早期発見・早期治療」するという、一般的認識に対して、先天性の疾患の遺伝子情報をもつ保因者である「親」を見つけ出し、特定する検査(遺伝学的検査)という「親の遺伝情報の取得と管理」と視点から、新生児マス・スクリーニングの内実をあらためて考察しました。この遺伝学的検査という、今までは「影」として見えていなかった部分に照明をあてることで、「保因者」という親の存在をほんのわずかかもしれませんが、明らかにすることができるのではないかと考えています。
つまり、検査で子どもに先天性の疾患があると分かった場合、その親は、疾患の遺伝情報の「保因者」として、疾患をもつ子どもをふたたび産む「恐れ(リスク)のある」存在とみなされるという現実です。親は、子どもの疾患が明らかになることで、今いる子どもとは別に、次の子どもを「持つ/持たない、選んで持つ」という事を、「遺伝情報もつ保因者」として考えてかなければいけなくなるのです。
さらに、出生前診断技術が開発されていくことで、新生児マス・スクリーニングで検査されている先天性疾患の多くが、出生前診断の対象となっていきます。生まれてきた子どもの早期発見・早期治療という側面とともに、次の子どもは選択される/されてきた可能性について、新生児マス・スクリーニングの歴史として、本書で明らかにしています。