本書の目的は、保健・医療・福祉の専門職が臨床の現場において支援の対象となる人々といかに向き合えばよいかという専門職としての職業規範について解説することにあります。
 この目的を果たすために、本書では2つのことについてアプローチを試みました。まず、保健・医療・福祉に従事する専門職の職業倫理とは何かについて検討しました。保健・医療・福祉の専門職は「支援を要する方々にとって何が最善か」、「専門職としてどのように行為すべきか」を常に考えながら、支援を要する方々の苦悩を最大限和らげようとします。同時に、専門職は同じ資格を有する専門職ならびに異なる資格の専門職に対し自らの専門性を認知させ、互いの理解と協業を経ながら支援を要する方々に向き合おうともします。一方で、専門職は目の前の支援を要する人に向き合うだけでなく、公共の福祉そのものにも寄与しようとします。本書では支援の対象となる人々ならびに社会の期待に応えるために、それぞれの専門職が有する職業倫理とは何かについて考えていきます。
 また本書では、「臨床において専門職の職業倫理にそぐわない事案が発生したときに保健・医療・福祉の専門職はどのようにしてそれを乗り越えようとしているか」を明確に記述したいと考えました。専門職は日ごろから自ら有する規範を内外に示し続けたとしても、臨床の現場ではその規範を揺るがす事態に遭遇することがあります。その際に専門職はどうすればよいのでしょうか。本書では可能なかぎり事例を用いながら検討していきます。その意味で、本書は臨床倫理に関する内容も含んでいます。
 本書では保健・医療の専門職である医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、そして福祉の専門職である社会福祉士と介護支援専門員の職業規範について詳細な解説がなされます。それぞれの専門職がどのような規範をもって専門職としての務めを果たそうとしているのか、本書を通して理解を深めていただくことができれば幸いです。

<目次>
まえがき
第1章 保健医療介護福祉専門職の職業倫理
第2章 ソーシャルワーカー(社会福祉士)の職業倫理
第3章 介護支援専門員(ケアマネジャー)の職業倫理
第4章 医師の職業倫理
第5章 看護師の職業倫理
第6章 言語聴覚士の職業倫理
第7章 理学療法士の職業倫理
第8章 作業療法士の職業倫理
第9章 保健医療介護福祉専門職における職業倫理のこれから―卒前教育に焦点を当てて
あとがき

山野 克明(熊本保健科学大学)