これまで代理出産における当事者のうち、代理母や卵子ドナーの経験が語られることは、殆どありませんでした。一般的にこれらの当事者たちは、契約により事実を公にすることを禁じられているためです。

 本書は代理母や卵子ドナーとなることで心や体に被害を被った方々が、自分と同じような苦しみを負う女性を増やさないよう、勇気を振り絞ってあげた声から成る証言集です。

 本書に登場する代理母は、日本でも批判の多い「商業代理出産」の事例だけではありません。倫理的な問題が少ないと考えられる「無償代理出産」の事例も数多く掲載されています。無償代理出産の実施を通じて、依頼者を含め関わる全ての人々が、予期せぬ負の感情に襲われ、悩み苦しむ姿が描かれます。

 原著共編者による「はじめに」や、監訳者による「解説」では、グローバル化した代理出産の実態が説明されます。男性に特化した市場の存在や、性的虐待目的で代理出産が利用された事例、無償代理出産に限定する代理出産合法化が、国外の商業代理出産利用を促進する現状が紹介されます。「監訳者あとがき」では、グローバル市場における日本の位置づけの変化を論じています。

出版社による本書紹介ページ https://seikatsushoin.com/books/kowareta/

【目次】

    • はじめに 
    • 戻れない血の契約  キャシー(カナダ)
    • 人生最大の過ち  オクサナ(ジョージア)
    • 匿名はもうたくさん――私はどのようにして複数回卵子ドナーに仕立て上げられたか  マギー(米国)
    • 不完全な赤ちゃんを妊娠したら、使い捨てに  ブリトニー(米国)
    • 知る権利なし  ナターシャ(ロシア)
    • 哀しい家族のつながり──息子に再び会えるでしょうか?  オデット(オーストラリア)
    • 私の代理出産が、悪夢になったとき  デニース(米国)
    • 私は孵卵器  ナタリア(ロシア)
    • 利用されだまされ、経済的にも破綻して、打ちのめされた  ケリー(米国)
    • 代理出産が家族をこわした  ロブ(オーストラリア)
    • 止まらない心の痛み  ウジュワラ、ディンピー、サララの経験(インド)
    • からだもこころも滅茶苦茶に  マリーアンヌ(英国)
    • 代理出産はビジネスである  エレナ(ルーマニア)
    • 張った乳房と張り裂けそうな心で、独り残されて  ミシェル(米国)
    • 「無私」のドナー  ヴィクトリア(ハンガリー)
    • 善意が人種差別と憎悪に出会うとき  トニ(米国)
    • おわりに
    • 謝辞
    • 文献一覧
    • 解説 世界の代理出産の概観
    • 監訳者あとがき
    • 訳者紹介

以上

柳原 良江(東京電機大学)