現在日本では、在宅における医療やケアが重視されるようになっています。住み慣れた環境において、その人の意思や生活を大事にしながら医療やケアが提供されることは、理想的な状況であるように思われます。
 しかし、理想的であるからこそ、その実現には多くの困難が伴います。医療・ケアを受ける本人の意思決定能力の問題、家族の介護力の問題、制度の問題、経済的な問題など、さまざまな要因によって、患者・利用者の尊厳が脅かされる事態が生じています。また、家族や医療・ケア従事者の尊厳が問題になることも珍しくありません。
 本書は、在宅医療・ケアの現場において尊厳が問題となる16のケースを取り上げ、それらの問題を見える化し、検討する上で必要な考え方を分かりやすく提示しています。さらに、こうした問題について話し合うための方法も解説しています。みなさんがよりよい解決策を見つける上で本書をお役立ていただければ幸いです。

出版社による書籍紹介ページ
https://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=732120

本書の構成

第1部
INTRODUCTION <誰一人取り残さない>在宅医療・ケアへ向けて

第2部
■CASE 1:ACPをうまく始められないとき
 「このまま自宅で静かに死なせてほしい」
■CASE 2:子どものケアと親の就労希望が対立するとき
 「保護者の方には付き添ってもらいます」
■CASE 3:家族によるケアが難しくなってきたとき
 「入院してもらわないと困ります」
■CASE 4:自宅の環境が安全を脅かしているとき
 「どれも大切なものなんです!」
■CASE 5:本人抜きに療養場所が決められるとき
 「家族の協力あっての自宅療養ですよね?」
■CASE 6:医学的リスクが本人の希望より重視されるとき
 「食べたいもの我慢してまで長生きしたくないよ」
■CASE 7:専門職が業務をめぐって対立するとき
 「それは私の仕事じゃない」
■CASE 8:介護現場で不適切なケアが行われているとき
 「自分の親は絶対に入れたくない」
■CASE 9:親族による虐待が疑われるとき
 「お金かかるのはだめって言われるんだよ」
■CASE10:本人が自分の変化を受け入れられないとき
 「俺はどこもおかしくない!」
■CASE11:外国出身の配偶者とケアの方針が合わないとき
 「日本人は冷たいね」
■CASE12:成人の障害者が社会と関われないとき
 「家しか居場所がないんです」
■CASE13:病院が自宅療養を一方的に難しいと判断するとき
 「胃瘻を作って療養施設へ行きましょう」
■CASE14:家族が威圧的な言動や支払い拒否をするとき
 「ウチのやり方でやってちょうだい!」
■CASE15:利用者のセクハラ行為がエスカレートするとき
 「怖くて訪問できません…」
■CASE16:患者が安楽死を望むとき
 「もう終わりにしたい…」

第3部
METHOD ケースを用いた学習法

堂囿 俊彦(静岡大学)