『原則と対話で解決に導く医療倫理』を刊行しました。 表題の通り、本書は医療現場で生じる倫理的問題を「解決に導くための道筋を示す」ことを目指したものです。医療倫理の問題は複雑で難しいものばかりです。それでも医療従事者は、個々の事例において責任ある意思決定を行わなければなりません。その際、たとえ自分たちの決定が「正解」でないとしても、それが「どのような原則的な考え方に基づくものなのか」、また「どのような話し合いのプロセスをたどって行われたものなのか」を明確に説明する「説明責任」があります。 そうやって根拠を明確にしながら判断を下す過程としての「倫理的推論」を解説することが、本書の主眼です。前著『医療倫理学の方法』を発展させ、この倫理的推論を「原則的アプローチ」と「対話的アプローチ」の2つに分けて解説しています。前者はビーチャムとチルドレスが道を開いた「倫理原則」が、後者は筆者が研究課題としてきた「ナラティヴ」および「対話」が鍵となる方法論です。 本書の構成は、まず概論として、第I部「医療倫理の歴史」、第Ⅱ部「医療倫理の理論」を解説しています。次に各論として、「性と生殖」、「死」、「患者の権利、公衆衛生、研究など」という3つの大きなテーマを設定し、幅広い問題をこのいずれかに集約して解説しています。読者として想定しているのは、大学や専門学校などで学ぶ学生と、医療現場で働く医療従事者との両方です。医師、歯科医師、薬剤師、看護師、助産師、保健師、診療放射線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、視能訓練士など、あらゆる保健医療職を目指す学生や、これらの職種として現場で働いている人たちが、医療倫理の基礎的な内容を学べるものとなっています。 医療倫理の問題を遠くから俯瞰して終わりにするのではなく、また「みなで考えていきましょう」のように先送りにするのでもなく、各事例の真ん中にいる患者や家族・近親者の前に立ち、問題を解決に導くための道筋を示すこと。これが本書の目指したところです。

目次
まえがき
第I部 医療倫理の歴史
 第1章 職業倫理の夜明け
 第2章 負の遺産と新しい時代
第II部 医療倫理の理論
 第3章 倫理,規範,法
 第4章 倫理理論と原則的アプローチ
 第5章 対話的アプローチ
 第6章 臨床倫理のツール
第III部 性と生殖
 第7章 性についての医療倫理
 第8章 生殖についての医療倫理
第IV部 死
 第9章 死についての医療倫理(1)
 第10章 死についての医療倫理(2)
第V部 患者の権利,公衆衛生,研究など
 第11章 患者の権利についての医療倫理
 第12章 公衆衛生,資源,情報,研究についての医療倫理
あとがき

出版社による紹介ページ:https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/115240

情報提供: 宮坂 道夫(新潟大学)