安楽死法や自死支援を法律で許容する国はなぜ増えているのか?――本書は、導入されている国々の安楽死法を基礎づけている「人間の権利」や、さらにはその権利の根底にある道徳原則について、各国事例の詳細な分析から安楽死の法・原理の鳥瞰図を具体的に描き出し、我国にとって、安楽死法はどうあるべきかを議論する上で有益と思われる情報を提供する。
内容の紹介:
オランダの安楽死法の法的基礎付けとその裏付けとしての倫理的原則を明らかにした。ケアの要件を遵守して安楽死を行った医師の犯罪性が阻却されるのは、患者の苦痛に対する医師の「思いやり」が、「生を保護する義務」と不可抗力となるからである。それを裏付ける倫理原則としては、「人間の尊厳」と「統合性」の二つがあるということを考察した。
スペインの安楽死法の前文には、安楽死の二つのタイプについて記載されている。「一方では、安楽死(支援自死)を実行する人が利己的な行動をしていないと考えられる場合や思いやりのある理由がある場合に、安楽死(支援自死)行動を非犯罪化する国、したがって必要な保証を提供しない不確定な法的空間を作り出してしまう国。 他方では、特定の要件と保証が遵守されていることを条件に、安楽死が法的に許容される慣行である場合を規制している国」。この文章を元に、三つのモデルを作成した。「リベラルモデル」と「思いやりモデル」で、後者はさらに「尊厳モデル」と「人格的統合体モデル」の二つにわかれる。それぞれのモデルを説明し、その背後にある倫理原則について相互比較を行った。
オランダ政府は、この4月に子どもの安楽死(12歳未満1歳まで)を認めるという政府決定をした。これは法ではないとはいえ、ルールである。しかし判断能力がない、それゆえに自発的意思決定できない子供たちの安楽死は、親の同意を得ているとはいえ、「非自発的安楽死」である。ついにオランダは滑り坂を滑り始めたのだろうか。この問題を『グロニンゲンプロトコール』(1歳未満の子の安楽死を認めるル-ル、2005年)をもとに考察した。またハーバーマスの「診断的関係」と「治療的関係」について紹介した。
世界の安楽死法に関する資料を掲載し、オランダや世界の安楽死の現状、また、各国の安楽死法の内容(適格条件)や法律の相互比較をした。
目次
第1章 オランダの安楽死と法
第2章 オランダ安楽死と倫理
第3章 安楽死法アトラス――思いやりモデルとリベラルモデル
第4章 子どもの安楽死——非自発的安楽死
資料1 世界の終末期医療の最新データ
資料2 世界の安楽死法の比較表
盛永 審一郎(公立小松大学)