https://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-04251-4
本書は、生命倫理と呼ばれる問題群から以下に挙げる六つのテーマを取り上げる。これらの歴史的背景、問題状況、そこに含まれる倫理的及び法的問題、そして将来的課題等、多元的な視点から問題を扱い、著者なりに解答を提示しようと試みている。その際、現代リベラリズムとは一線を画し、「いのちの現場に寄り添う」ことに立脚する。以下に、各章の概要を紹介する。
序章では、生命倫理を考える上で重要な判断基準、「自己決定権」と「人間の尊厳」の考え方について、その倫理学的な基礎理論を整理しつつ、いのちの問題では、自己決定権が万能の解決策ではなく、「人間の尊厳」への関係論的アプローチがいかに重要かを論じる。
第1章「人工生殖」では、現代の不妊問題に触れ、さらに、人工生殖技術のうち、人工授精、体外受精、顕微授精、代理懐胎について、その倫理的問題や法律問題を概括し、分析している。
第2章「人間のクローン」では、クローン技術の成立背景と、国内外の技術に対する議論状況を紹介している。また、クローン技術で子どもをもうける場合の倫理問題、並びに、技術使用が許容されない根拠を丁寧に分析検証する。
第3章「人工妊娠中絶」では、西洋や日本において、歴史の中で中絶問題が、倫理的あるいは法的にいかに取り扱われてきたかを俯瞰する。さらに、胎児はいつから「人」になるかを検討しながら、胎児の生命権と女性の自己決定権とのあるべき関係を考察する。
第4章「医療の法と倫理」では、まず、「患者の権利」の考え方の成立過程や議論状況を紹介したのち、医療における法的問題の概要を紹介する。次に、がん治療における告知の意義とホスピスの役割を検討し、そこにおける看護倫理の重要性について哲学的議論を展開している。
第5章「安楽死・尊厳死」では、安楽死や尊厳死の概念定義、世界的状況を紹介しながら、国内外の安楽死・尊厳死に関連する代表的な判例や論点を詳述する。
第6章「脳死・臓器移植」では、脳死の定義を概観し、わが国の臓器移植法の成立背景、法律の骨子、法改正後の問題点、世界の臓器移植の捉え方等を概括する。
<目 次>
改訂版まえがき
序章 自己決定権と人間の尊厳 ―生命倫理の原点から
1 自己決定権
2 人間の尊厳
第1章 人工生殖 ―生命の神秘への挑戦
1 生命の誕生と不妊
2 様々な人工生殖技術
3 人工生殖が問いかけるもの
第2章 人間のクローン ―コピーされる「いのち」
1 ドリー誕生の衝撃
2 クローン技術の夢と野望
3 なぜクローン人間をつくってはいけないのか
第3章 人工妊娠中絶 ―産まない権利か、生まれる権利か
1 中絶問題の歴史
2 各国の現行中絶法と中絶の実態
3 日本の中絶の歴史と中絶法
4 中絶は認められるか
第4章 医療の法と倫理 ―患者を支える医療と看護
1 患者の権利とは
2 ガン告知とホスピス
3 看護の倫理
第5章 安楽死・尊厳死 ―生命の尊重と人間の尊厳
1 安楽死・尊厳死とは
2 安楽死の倫理と法
3 尊厳死の倫理と法
第6章 脳死・臓器移植 ―生と死のはざま
1 脳死とは何か
2 臓器移植法
3 脳死説は認められるか
4 なぜ脳死・臓器移植は受け入れられないのか
主要参考文献
あとがき
索引
伊佐 智子(久留米大学)